動物の命は人間より軽いのか?今一度、大切さを問う 下村敦史 著『黙過』

普段は決して選ばないような本を手にとってしまいました。
黙過 (文芸書)(もっか)。この、ものものしいタイトル。そして極めつけに、この表紙。
明らかにこわいよね。ホラーだよね。病院の廊下だもの。なんか暗いもの。

ミステリーは平気なのですが、ホラーとなると話は変わってきます。
どうして「読もう」と思ったのかは、とあるきっかけがあるのですが、そちらの話はおいおい。
結果、読んでよかったー! と大手振りたくなる作品でした

絶対に、このタイトルと表紙のダークさで惜しいことしてるような気がする。
そう思わずにはいられないほど、どこまでもあたたかい物語だったんです。

 

動物の命は人間より軽いのか?

 

この作品は5つの短編連作集となっており、前4話がさいごの1篇を際立たせる構成になっています。
准教授同士の医局争いだったり、養豚場の屠殺に対する動物愛護団体の抗議だったり、
扱うテーマはけっこう生々しいもの。

人の命は数で判断できるのか―――

「命」というキーワードに沿って、めまぐるしく展開していくストーリー。
そして、要所で投げかけられる問いに、わたしたち読者は頭を悩ませることになります。
動物の命と、人間の命の比重。
はたしてどちらが軽くて、どちらが重いのか。

 

人の生き死にを決める権利が同じ人間にあるだろうか

 

『優先順位』という短編のなかで、医師のひとりである倉敷が繰りかえし自問するシーンが印象的です。

人間の命に関する問いは、容易に数字で割り切れないからこそ、”究極の問い”なのだ。

本当に希望はないのだろうか。

肝臓移植さえすれば助かる目の前の患者に対して、尽くす手もなく思いあぐねているだけの自分に、
憤りをおぼえながらもただただ、なにも出来ずに突っ立っている。
ここで諦めたら、ここで自分が何もしなければ、彼は命を終えるのだ。

「命」そのもの、もしくは、その概念について、しつこいほどに問いを立てる経験が、
わたしたちには少なすぎるのではないでしょうか

彼の姿勢や発する言葉からは、たくさんのことが学べます。
どこまでも不器用で、どこまでもやさしい登場人物たち。
こんなにあたたかいストーリーだなんて、とてもこのタイトルと表紙からはうかがえない!

 

『黙過』してほしくない、この作品

 

ぜひ、騙されたとおもって、そこのあなたも手に取ってほしい。
販売からひと月と立ってない作品ですが、私が購入したときはもうすでに棚差しとなっておりました。
もったいない……とても、もったいない!

別個のストーリーがある一点で繋がって見る間に解決していく様を、
優しすぎて空回りしてしまうどこまでも不器用な登場人物たちを、
どうか、その目で見てほしいです。