さあ、行こう。これは僕らの最後の旅だ――有川浩 著 『旅猫リポート』

ベタが欲しいときってないですか、みなさん。
この世には、あらゆる物語が溢れていますよね。恋愛でもミステリーでも学校ものでもジャンルを問わず、奇をてらった展開が無意識に求められているような気がします。

そんな流れのなかで敢えて読みたくなるベタ展開!
有川浩は、欲しいときに欲しい展開をくれる。けれど、決して手垢のついたように感じさせない圧倒的な筆力がある。

旅猫リポート (講談社文庫)』を読みました。
物語のつよさを、改めて感じさせてくれる物語。
有川浩? 肌に合わないんだよね。そういう人にこそ読んでほしいとおもっています。

ほんとうの“旅の理由”

 

この『旅猫リポート』は、主人公の悟とその飼い猫であるナナちゃんの“旅の話”です。
冒頭にはこのふたりの出会いのシーンが描かれており、5年のあいだ一緒に過ごしてきた事実は明かされているんですが、その期間の生活の様子はまったく描かれていません。

唐突に旅の出発へと場面がうつっていく。
ふたりは共に車に乗り込んで目的地へと向かいますが、それがただの楽しい旅行じゃないことだけはわかる。

この5年間、ふたりはどのように過ごしてきたんだろう。
そんな生活の些事が気になりながらも、突如スタートした旅の行方にすぐ興味がうつっていく。

どうやら、よんどころない事情があってナナを飼いつづけることが難しくなってしまった悟は、新しく飼ってもらえる引き取り手を探しだすためにこの旅をはじめたようです。
幼少期から転校がおおかった悟は、小学校・中学校・高校の旧友のもとをそれぞれ訪ね、ナナを飼ってもらえないかと聞いてまわります。

僕は何にも失ってない。ナナって名前と、サトルと暮らした五年を得ただけだ

ナナの一人称で進んでいくこの物語。気丈でひょうひょうとしたナナの語り口がくせになります。悟のことを軽んじているようでいて、どこまでも信頼していて、どこまでも大好きで、どこまでも一緒にいたくて。

猫が好きな方にはたまらないと思います。ふたりの愛情にぜひ癒されてほしい!

 

主人公の悟が良いやつすぎる

 

またね、ものすっごく良いやつなんですよ! この主人公の悟が!
良いやつすぎてリアリティがないくらいです。絶対にこんなやつはいない。聖人すぎる。

ふつうの男の子のようでいて、まわりにいる人間のことをどこまでも思いやってるんですよね。優しくしてもらえることに感謝しながらも、この状況がいつまでも続く当たり前のものではないこともちゃんと、腹の底ではわかっている人。

現実的じゃないのに、でもきっと、悟はどこかに確実に存在しているだろうな、とおもう。
ひょうきんに立ちまわる面もあるけれど、その最中にもきちんと友人の機微をひろえている。そんな細やかさを備えた悟の魅力にやられてしまうこと必至です。

うん! いい男!

あとはあれですね、ナナをかわいがる猫バカっぷりもなかなかですよ。

これから僕たち、この旅が終わるまでにどんな景色を一緒に見られるんだろうね

 

 

わたしたちも一緒に旅をしているんだ

 

旅の道中、なかなかナナを引き取ってくれる相手はみつかりません。

さあ、このワゴンに乗って、君が次に僕を連れていくのは誰のところだい?

あたらしい相手を訪ねていくということは、ふたりの別れの可能性をつよめる行為でもあるんだけれど、この旅を終えるわけにはいかない。
ふたりでドライブをしながら、いつのまにか、私たち読者も一緒に旅をしている。
悟と、ナナと、ともに車に乗り込んで、次の目的地を目指していく。

なぜ悟は、ナナの新しい飼い手を探しているのか?
それは「スギとチカコ」という章のなかで明かされます。
悟の友人でペンションを経営している夫婦、スギとチカコの飼い犬であるトラとナナのやり取りの中で明らかにされる、大きすぎる真実。

さあ、行こう。これは僕らの最後の旅だ

彼らと一緒に旅をする。ページを繰ることは、ふたりとの旅が終わりに差しかかることを意味する。いやだ。終わりたくない。終わってほしくない。
けれど、ふたりは生きているんだ。ともに5年間生きてきたんだ。

わたしたち読者にできることは、その最後の旅を見届けることだけだ。

 

これぞ、有川浩!

 

有川浩さんの作品が大すきで、初めて読んだのは『塩の街』でした。
キュンキュンして、ただただ泣けて、ここぞという時に欲しい展開をくれる我らが有川浩!裏切らないです。つねに強烈な“読書体験”をくれる。

もしもこの『旅猫リポート』未読のかたがいれば、ぜひ読んでみてください。

右に左に、揺り動かされる感情に、身を任せてください。