「もしこの世界が終わってしまうなら、あなたは誰と一緒にいたいですか。」
何気なく変わり映えのない日常を送っていた時には、この問いを考えたこともありませんでした。
新型コロナウイルスの感染拡大によって、これまで送っていた日常生活が遠い存在なるまでは。
自粛生活を余儀なくされる中、ふと読んだ本が私の心に響いてきました。
それは、有川浩(現:有川ひろ)さんの『塩の街』です。
突然変わってしまった日常生活、危機に正面から立ち向かう男性自衛官、そして想い人に無事の帰還してほしいを願う女子高生を描いた著者のデビュー作です。
あらすじ
東京湾羽田空港沖に落ちた巨大な塩化ナトリウムの結晶により、それを見た者は全身が塩化し、死に至る。そのため、関東圏の人口は3分の1にまで減少し、塩害被害者の中には、国会会期中が災いし、政府要人も多数含まれていた。
社会システムが崩壊した東京で、一つ屋根の下に暮らす、30前後の男性秋庭と女子高生の真奈。お互いに惹かれあうが、特殊な状況下にあるため、お互いに自分たちのことを語ろうとせず、暮らしていた。
そんな二人の前には様々な人が通り過ぎる。塩化した幼馴染と海で最期と共にしようとするもの、塩化が始まり逃げてきた元犯罪者など。ところが、秋庭の友人と名乗る入江の登場により、秋庭と真奈の運命は変わってしまう。
一瞬にして変わってしまった世の中
『塩の街』の世界は、塩化ナトリウム化=塩害により、世の中が一変します。
有事に先頭で立つ指導者すら塩害の被害に遭い、社会システムですら機能もしない状態になります。まさに秩序の崩壊です。
食料は第二次世界大戦中のように配給制となり、犯罪が横行しても取り締まる人がいません。
みんなが疑心暗鬼となり、信じられるものが少ない世界が描写されています。
本書では女子高生の真奈は暴漢に襲われていたところ、秋庭に助けられ、共に暮らし始めます。
現在私たちが生きる世界は、『塩の街』ほど社会システムの崩壊にまで至っていなくても、新型コロナウイルスの感染拡大によって、世界が変わるというインパクトがありました。
世界が変わる前には、会いたい人にも会えない、したいこともできない状況を想像もしませんでした。
「時間は有限だ、後悔しないように生きよう」という言葉を見かけますが、今日ほど、心に響いたことはありません。
どこか、『塩の街』の世界と現状がリンクしているように感じるのです。
恋は世界を救うのか?-有川作品にみる戦闘×恋愛-
秋庭の正体は、元航空自衛官。
そして、入江は元々警視庁の技官でしたが、自衛隊立川駐屯地の司令を勝手に名乗っていました。
入江は秋庭へ「大規模テロ作戦」と称した危険な任務を持ち掛けます。
それは、米軍厚木基地の戦闘機を奪い、東京湾に浮かぶ塩の結晶を破壊すること。戦闘機を操った経験がある秋庭でなければできない作戦です。
この大規模テロ作戦に、秋庭は塩害被害を少しでも減らすために、自分の命をかけて、入江の作戦を承諾します。
しかし真奈は、想い人秋庭に命を懸けてまで、危険な任務に行ってもらいたくありません。秋庭が危険な任務についているのなから、自分も入江が塩害実験を行っていた部屋に入ります。
秋庭も真奈が安全に生きられることを何よりも望んでいましたが、真奈が塩化の危険がある部屋に籠ったことを聞き、絶対に真奈の元へ帰還する気持ちがより高めるのです。
戦闘と恋愛、一見相いれなさそうな二つの事象を、見事に組み合わせたとシーンだと思いました。
そして、秋庭は見事、作戦を成功させ帰還します。1つの恋が世界を救った瞬間でした。
まとめ
図書館戦争シリーズにも見られる、有川作品の戦闘×恋愛。
その原型はデビュー作にできていました。
「大規模テロ作戦」の描写で、どんなに世界が変わろうとも、愛しい人がいるだけで人は強くなれんだと思わせられました。
世界が終わる瞬間まで人々は恋をしていた。
きっと最後の瞬間まで恋をしていた人たちはいっぱいいる。
そのうちの一つの恋が世界を救ったのだ。世界を救うなんて大上段な使命感ではなく、ただ好きな人を守りたい、という願いがきっと一番強いのだ。
きっと世界を守りたいなんて思って世界を守る人はいない。
好きな人がこの世界にいるからだ。
好きな人を守りたくて、守り切ったら、ついでに世界を救っていた。そんなものだったのだ。
この世界が救われたのは。
危険な任務に立ち向かうことで、正義感や名誉は得られるかもしれませんが、愛する人の元へ帰りたい気持ちは、生きる気持ちをより強くさせると、秋庭と真奈の恋愛を見て、より実感します。
世界中で「恋愛」をテーマにした小説や映画が数多く存在しますが、生きる大きな力になるのだと、本書を読みより感じたのでした。
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