「あなた」と「わたし」から生まれる大切な言葉 瀬尾まいこ 著『強運の持ち主』

今回ご紹介する1冊は瀬尾まいこさんの「強運の持ち主」です。

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そして、バトンは渡されたが2019年の本屋大賞を受賞した瀬尾まいこさん。今回ご紹介する「強運の持ち主」は10年前の2009年に発行された本ですが、瀬尾さんが描くハートフルなストーリーはこの本でも味わうことが出来ます。

誰しもは一度は「強運の持ち主になってみたい」と願ったことがあるのではないでしょうか。本のタイトルにもなっている「強運の持ち主」。

強運の持ち主の一生を描いた作品なのか、強運の持ち主はどのように日常生活を送っているんだろうと興味を持ち、この本を手に取りました。

あらすじ

ショッピングセンターの片隅で占い師を始めたルイーズ吉田は、元OL。

かつて営業職で鍛えた話術と、もちまえの直感で、悩む人たちの背中を押してあげるのが身上だが、手に負えないお客も千客万来。

「お父さんとお母さん、どっちにすればいいと思う?」という小学生。

何度占いがはずれてもやって来る女子高生。

「俺さ、物事のおしまいが見えるんよ」という大学生まであらわれて、ルイーズはついに自分の運勢が気になりだす…。

ほっこり優しい気持ちになる連作短篇集。

この本の主人公は人間関係に疲れてしまい、1人で気楽に働ける占い師に転職することに。ショッピングセンターの片隅で占いを初めて3年になる主人公。今日も不思議なお客さんたちが主人公の元に訪れます。

占い師って実際こんなもんなの??

私がこの本を読んで一番最初に驚いたのは主人公の占いのスタイル(?)でした。

いかにもそれらしく表を描いてみる。いくつかの数字を書き、折れ線グラフみたいなものを示す。

これで三千円。ちょろいものだ。1人20分で三千円。1日平均20人は占うから、合計6万円。場所代や諸々の費用を除いても、いい儲けになる。

仕事内容は簡単だ。性格を言い当てて、この先いいことがあるってことをほのめかしておけばいい。それで、お金がもらえて、相手だって気持ちよく帰っていく。

どんな人だって、弱いところがあるし、頑固なところもある。繊細だって言われれば喜ぶし、優しい人だと言われて悪い気はしない。そういう誰にでも当てはまりそうなことを、それらしく話しておけばいいのだ。

どうでしょう。

きっとこれまでに占い行ったことのある経験のある人ならば、(一番最初の折れ線グラフを除いて)「確かにこんなことを言われたな・・・」という内容ではないでしょうか。今後私が誰かから相談を受けたら上記の内容を元に背中を押してあげたいと思うくらい、悩み相談のテンプレのような仕事っぷりですね。

さっちー
ちなみに私は新宿にあるよく当たる手相占いに言ったら「これは徳川家康と同じ手相だね」と言われたことがあります。徳川家康の手相なんて残っている(?)んだね!?

ここまでざっくばらんに占ってくれる(話に付き合ってくれる)占い師さんがいたら通いたくなるな・・・と思いました。

こう考えてみると占い師さんって、リピーターを不要としないカウンセラー のようなものですね。

主人公はこの適当さが(恐らく)お客さんにも伝わってしまっているものの、なんとか占い師っぽく取り繕う場面が何度か描かれています。なんだか読んでいて微笑ましく思えてしまう占い師の日常の一コマでした。

瀬尾さんの描く優しい日常の一コマ

瀬尾さんの小説の中で特に私が好きな部分は、ストーリーの中に散りばめられている優しい日常の一コマです。人の日常や普段の生活を垣間見るとリラックス効果を感じるのは私だけでしょうか。

今回のストーリーでも主人公の彼氏の通彦がとてもいい味を出してくれていました。

ぼんやりしていていつも呑気な通彦ですが当たり障りのない平和で平凡な日常があるからこそ、その優しくおっとりした性格になったのだろうなぁと感じました。

短気で気移りしやすい主人公とのアンバランスさが一見不釣り合いなように見えて絶妙なバランスとなり、2人の絆を強くしてくれているのだと思います。

また、通彦はびっくりするくらい料理のセンスがなく(笑)、読みながら「それはないよな〜」と思いながら2人の食事を想像してしまいました。

誰かの一言が心を軽くする

主人公は占いの道を極めたいと、占いの道に進んだわけではありませんが、雑な気持ちで占いをしているのではなく、「お客さんに気持ちよくなって帰ってもらいたい」「背中を押してあげたい」という気持ちからお客さんに言葉を選んで語りかけます。

「お客さんに気持ちよく帰ってもらいたい」「背中を押してあげたい」という気持ちが強いのでしょう。そのせいか、占いに来るお客さんを「めんどくさい」と思いながらも自宅に帰ってからも気にかけたり、休日を返上して様子を見に行ったりしてしまいます。

主人公自らも「たかが占い」と口にしますが、「たかが占い」と割り切れず行動してしまうのはこの出会いが誰かの人生を変えるかも知れないと心の奥底でいつも思っているからではないかと感じました。

気休めで放った言葉が誰かの心を軽くしたり、誰かのお守りのようにその人を包んだり、勇気を与えたり。出会いから生まれる会話は偶然を超え、胸に残り続けるものを生み出します。

「1人のほうが気楽でいい」と豪語していた主人公ですが、誰かといることで生まれる会話の中にその人の人生を変えるかも知れないエッセンスが詰まっていることに気付いたのでしょう。

「あなた」と「わたし」だからこそ生まれる思いを伝えてあげること。「あなた」と一緒にいる「わたし」だからわかること。これは占いの技術を使わなくとも、一緒に過ごした日々が自ずと正解を導き出してくれることだと思います。

きっとあなたにも忘れられない一言があるのではないでしょうか。あなたが大切にしている言葉の数の分だけ、あなたが放った何気ない言葉も誰かの胸でずっと煌めき続けているはずです。

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わたほん編集者。子どもの頃から本が好き。日々の忙しさに負けて本から離れた時期もあったけれど、結局本に癒され、本に励まされ、本からたくさんのことを学び、立ち上がってきました。私である意味を、存在する意義を与えて教えてくれるのは本。軽めの本やビジネス本を好んで読みます。