体験した者にしかみえない世界。ヴィクトール・E・フランクル 著『夜と霧』

こんにちは。
今回は、最近になってやっと再読できた、自分の読書歴の中でも印象深く記憶されている本を紹介します。

この本を初めて読んだのは、心理学を専攻していた大学生時代でした。
当時は、課題として作品を知り、読む時間が限られていたため。深く読み込むほどには至りませんでした。
それでも、初めて読んだ当時の私にはこの本が印象強く残り、本屋さんで見かけるたびに、
「いつかきちんと読もう」と思って、頭の片隅に置かれたままでした。

わたほんで紹介されている作品の中では、少し珍しいジャンル・書き方の本かなと思います。
ぜひこれを機に、この本はもちろん、いろんなジャンルの作品にも興味を持ってもらえたらうれしいです。

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この本について

作者のフランクルは、ウィーン生まれの心理学者であり、精神科医でした。
この本は、第二次世界大戦の戦時下、ナチスが行ったユダヤ人迫害の中で、作者が強制収容所に送られている場面から始まります。

「心理学者、強制収容所を体験する」。
これは事実の報告ではない。体験記だ。

作者は作品のまえがきの冒頭でこのように書いています。
ここであえて、体験記、と記されているように、読んでみると、
その場にあった事実だけでなく、経験・日常・心情の変化を
実際にその場を体験した作者だからこその視点で、生々しく、おぞましく、より分かりやすく描かれています。

ここでは、たくさんのエピソードやテーマの中から特に私が印象に残った2つをご紹介します。

愛について

収容所で生活していた人々(被収容者)の多くは、
家族と離れ離れになりその家族の居場所や安否さえわからない、という苦難な立場に立たされていました。
そんななか、誰しも同じだったのは妻をはじめとする家族への愛情でした。

寒さの厳しいある日、作業場までの長い道のりを歩かされていると、作者の隣を歩いていた仲間がこう言いました。

「女房達の収容所暮らしはもっとましだといいんだが。
おれたちがどんなことになっているか、知らないでいてくれることを願うよ」

この言葉を聞いた作者は、自身の妻に想いをはせ、面影を思い浮かべます。
その時、愛する人の励ます声や笑顔のまなざしがそこにはあったと作者は書いています。
そして彼は、ほかに今まで何人もの思想家や詩人が達してきた、
「人が到達できる、究極にして最高のもの」それこそが、愛なのだ、と気づいたようでした。

この時の彼には、愛する自身の妻が、もはや生きているのか死んでいるのかは重要な事柄ではなくて
妻という大事な存在の有無が大きく心情を変化させたのでしょう。

ふるさとについて

作品の中で、作者をはじめとする被収容者たちの各々のふるさとをめぐるエピソードがいくつか出てきます。
まず、重要なのは、ふるさとは彼らが「帰りたい」と何度も願った場所だということです。

彼らが収容所生活から解放され、帰還を切望したふるさとへ戻ると、
思いがけない人々の反応や町の光景が待っていました。

ふるさとに帰ってきて気づくのは、そこかしこで会う人たちが、
せいぜい肩をすくめるか、おざなりの言葉をかけてくるかだ、ということだ。

このような、ふるさとの人々の自分に対する反応や態度に
収容所生活から解放された者たちは不満を感じたようでした。

自分たちが耐え忍んですごしてきた収容所での生活は何だったのか、
と、考えてしまい、自分が戻りたいと思っていたふるさとの生活に違和感を感じてしまうのでした。

この作品を読んで

読み始めた頃は、収容所での痛みや辛さに対する描写が、痛々しく、生々しくて、読み進めるのが苦痛に感じる場面もあるほどでした。ストーリーよりもそのような表現に目がいってしまう感覚さえありました。
しかし、読み進めていくうちに、収容所の中での人々の身体や心情の変化、人間としての感覚や感情の消滅や損失に目が向くようになりました。
これは、単純に言えば、痛々しい描写に慣れてきたのだろうと考えられます。
しかし、作品の中の作者の考えを借りるとするならば、被収容者が収容生活に慣れてきて生じた〈感動の消滅〉と同じ現象なのかもしれないと思いました。
たしかに、強制収容所という特殊な場所で厳しくつらい生活を余儀なくされた人々と、何気ない生活を送る自分に同じ現象が起きたのでは、というのはおこがましくも思います。
しかし、だからこそ、作者が伝えたかったのは、自身が体験した事実や歴史だけではなく、過酷な環境での〈人間〉の姿なのかなとも思いを巡らしてみたいところです。

おわりに

いかがだったでしょうか。
この作品は、お世辞にも「誰にでも読みやすいやさしい本です」とは言えません。
私なりにひとことで表すとしたら・・・
「自分が知らない人間の姿が描かれた骨太な作品」
でしょうか。

気になった方はぜひ、手に取って読んでみてください。

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ABOUTこの記事をかいた人

おとみ

群馬県出身、28歳のまだまだ新米な専業主婦。 よく読むジャンルは、自己啓発やエッセイなど。 今までは自分の好きな本ばかり読んできたけれども、これからは色んなジャンルを読んで、もっと自分自身の思考の幅を広げていきたいです。