500年の時空を超えた「啓示」 姜尚中 著『あなたは誰?私はここにいる』

こんにちは。ミズエ(@osoranokanatahe)です。

今回は、姜尚中(カン・サンジュン)氏の「あなたは誰?私はここにいる」という新書を紹介します。

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姜尚中氏について

 

姜尚中さんと言えば、在日外国人にして、東京大学名誉教授。

数年前に上梓した「悩む力」はミリオンセラーとなりました。

元々の専攻は政治学ですが、芸術に対する造詣が深く、それに関連して、2009年(平成21年)4月 – 2011年(平成23年)3月には『日曜美術館』(NHK教育テレビ)の司会を務めています。

 

わたしはここにいる、おまえはどこに立っているのだ

 

一枚の肖像画。

姜尚中さんはデューラーが1500年に描いた《自画像》と出合ったとき、

「わたしはここにいる、おまえはどこに立っているのだ」

と問いかけられたような気がしたと本書で述べています。

出典 ウィキペディア

姜尚中さんがその絵と出会った場所は、ドイツの国立美術館、アルテ・ピナコークの一室。姜さんがドイツに留学中のことでした。

わたしは、「在日」という自分の出自だけでなく、そもそも生きることの意味や自分がどうして生まれてきたのか、なぜ生きるのか、この時代はどうして自分の問いに答えてくれないのか、そうしたもろもろの問いによって堂々巡りを繰り返し、悩んでいたのです。

姜さんは当時の自身を「ただの高慢だが、自信のない若者、いやもう若者ですらなくなりつつあったモラトリアム人間」と称しています。

また、当時を一言でいうと「憂鬱」と述べています。

姜さん曰く、「深い悲しみや喪失感がわたしを苛んでいたわけではない」が、「それはとらえどころのない気分、煙のように動く感情」のようなものであったといいます。

「心地よく、不安であり、そして憂鬱」と称されたその感情の中で、出会った一枚の肖像画。

その絵がデューラーの《肖像画》です。

姜さんは、身震いするような深い感動を覚えたといいます。

大仰な言い方ですが、それは、500年の時空を超えた「啓示」のように思えてなりませんでした。

偶然ですが、その肖像画を画家であるデューラーが描いたときの年齢と姜尚中さんの当時の年齢がほぼ同じだったそうです。

しかも、デューラーは自身の肖像画であるその絵を、生前は世に出そうとせず、亡くなった後に、ニュルンベルクの市長舎に飾ってほしいと願っていたようです。つまり、この《自画像》という絵は、デューラーにとっての遺言のような絵と言えます。

そこには、彼の見栄も、強烈な自我も、悲しみも歓びも、そして俗っぽさも神々しさも、すべてが表現されているのです。
何と早熟で、そして人生の深淵を見つめているような憂いのまなざしであることか。
そこには、すべてを受け入れ、決然として立とうとする矜持のようなものがあふれでていました。

姜尚中氏は、この自画像を、「自分を超えていくような自意識を映し出している」と評しています。

そこには、運命的なものを受け入れ、それでも自分が何者であり、何をなさなければならないのか、深く自覚した者ならではの姿が映し出されているのです。

姜尚中さんがこのように感じた、デューラーの《自画像》

デューラーの心境が、在日韓国人である姜さん自身とも重なったのではないでしょうか。

どんな人でも多かれ少なかれ運命というものを背負っていると思います。それは逃れることのできない宿命です。

姜さんがデューラーの《自画像》を介して心に浮かんだその想念は、心にも響くものがあります。

また、デューラーの生きた時代は生と死が隣り合わせだった時代でもありました。
デューラーの母親は、十数人の子宝に恵まれながら、わずかデューラーも含め、数人しか生き延びることができなかったといいます。

そんな時代に幸運にも生き延び、諸国遍歴を経たデューラーは、「もう迷わない、一生を神に捧げるつもりで描きつづけるのだ」そう決断しても不思議ではないと姜さんは言います。

そう決断し、すべてを受け入れたとき、デューラーの胸の内にかすかな希望が宿ったのではないでしょうか。

不思議なもので、様々な苦悩を受け入れられないときは、もう夜は明けないのではないかという気持ちになります。

ですが、対峙し、すべてを受け入れたとき、夜明けが始まる。

姜さんは、直感的に自分の中に点る仄かな光から、希望が成りきたるかもしれない、そんな予感めいたものを感じ取るようになったと言います。

「そうだ、自分はどこにいるのか、どんな時代に生きているのか、そして自分とは何者なのか、それを探求していけばいいんだ。ただ、どこからか与えられる意味や帰属先を待ち続けるのではなく、自分から進んで探求していけばいいんだ。」

姜さんは、そう決めると、生きる力が湧いてきたといいます。

おわりに

今回は、姜尚中さんの「あなたは誰?私はここにいる」の第1章から、デューラーの《肖像画》を通して姜さんの心に起きた変化を中心に紹介させていただきました。

わたしは、姜尚中さんの著作を読むと、生きる力が更新されたように感じます。

美術を通して、哲学と詩を行き来きするような文章には心が洗われます。

この本は、あなたの人生をきっと豊かなものにしてくれると思います。

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ABOUTこの記事をかいた人

北海道在住。2児の母。濫読、雑食の活字中毒。よく読むジャンル:小説、ビジネス、エッセイ、歴史、新書。好きな小説家:平野啓一郎、村上春樹、宮部みゆき作品(敬称略)読者の皆様の本との一期一会のお力になれますように。

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