こんにちは。ミズエ(@osoranokanatahe)です。
齋藤孝氏と言えば、古今東西の幅広い学識を持つことで有名です。
そんな齋藤氏が、美術における知見を入門者向けに平易にまとめたのがこの本です。
美術に興味があるけれど、その見どころがよくわからないと感じてしまう人は多いのではないでしょうか。
本書を読み終えた後には、今まで目にしたことのある絵の新たな側面が見えてくるはずです。さらに、そのように絵を見ることによって、皆さんの周りの世界も、これまでと違って見えるようになるでしょう。
この本を読むことで、これまでよく目にしてきた有名な絵画も違って見えてきます。
なぜなら、美術史の背景を知り、その絵の何がすごいかを理解できるようになるからです。
この本では、画家たちの作品群を、ざっくり5つの要素に分けています。
その上で、それぞれの画家の細部に迫っているのが面白いところ。
今回は、美術史を知る上で大切な軸となる「5つの視点」を中心にご紹介させていただきます。
5つの視点
「5つの視点」とは、多くの画家の描く絵画の特長を、わかりやすくカテゴリ化したものです。
この本では、
「うまさ」「ワールド」「スタイル」「アイデア」「一本勝負」
という5つの視点から、齋藤氏が美術界の巨匠ベスト50を独自に選び、それらの画家たち一人一人に対して、鑑賞のポイントが解説されています。
この5つの要素を知ることで、美術が楽しめるようになると齋藤氏は述べています。
うまい
ここでいう「うまい」とは、写実的、かつデッサンに優れているということです。
子供が見ても大人が見ても、日本人外国人問わず、とにかく誰が見ても「この絵はうまい」と言われるようなうまさです。
たとえば、有名どころで、レオナルド・ダ・ヴィンチ。
「モナ・リザ」や「最後の晩餐」で有名です。

その他、日本人にとりわけ愛されている画家、ヨハネス・フェルメール。
『真珠の耳飾りの少女』や『牛乳を注ぐ女』などが有名です。

絵のうまさの基本には、細部に見られる「写実的なうまさ」があるといいます。
名画といわれるほどのうまい絵には、細部のうまさはもちろん、絵の全体を見たときのトータルなうまさがあります。これは、絵を見る距離を変えたり、全体から部分を隠してみることでわかります。
シンプルに絵のうまさを楽しめるというのは、ある意味、気楽に楽しめるということです。
うまさの作品は、万人向けするというのが特徴かもしれません。
ワールド
では、齋藤氏の言う、「ワールド」のある絵とはどのような絵でしょうか。
それは世界観のある絵です。
多くの人が共感できる世界観を持っています。
見たときにその絵の世界に吸い込まれてしまいそうな感覚を持つ絵、それがワールドを持った絵です。
たとえば、パブロ・ピカソの「青の時代」です。

ピカソは、20歳から23歳にかけての数年間、ひたすらすべてを青色で描き続けました。背景、着ているもの、顔などもすべて青色に統一するという描き方です。友人の自殺をきっかけにピカソは青の時代に入ったと言われています。
日本人に人気があると言われるジャン=フランソワ・ミレーの「晩鐘」もワールドの絵と言えます。

ミレーの絵は自然の中で地に足をつけているというイメージがあります。
ワールドのある絵は、その一枚の絵の中に一つの世界が表現されていて、見ている人を「アナザーワールド(別世界)」に連れていってくれます。
一言で言うと、引きずり込むような力があります。
そうした引きずり込むパワーの基本となっているのが、実はワールドを持っているという意味だと、齋藤氏は述べます。
スタイル
ワールドが「多くの人が共感できる世界観」であるとしたら、
スタイルは「その人ならではの世界の見方」です。
絵を見ただけで「これは誰の絵だ」とわかるということは、「スタイル」を確立している画家と言えます。
本書でスタイルがあるとして取り上げている画家は、単に技法上の工夫、特徴があるということにとどまらず、「世界をその人なりに一貫してアレンジして表現している人」だと齋藤氏は述べています。
具体的にいうと、絵画のタッチが新しいというような技術ではなく、その人の世界観みたいなものがあること、世界を一貫して変形させる目を持っていること、それがスタイルがあるということだという考えです。
そのようなスタイルを持った画家としては、ヴィンセント・ヴァン・ゴッホ(「ひまわり」など)やクロード・モネ(「睡蓮」など)、ルノワール(「ムーラン・ド・ラ・ギャレットの舞踏会」など)、後期のピカソ(「ゲルニカ」など)などが挙げられています。



見比べていただくとわかりやすいですが、確かに彼らの作品は、いかにも画家風(ゴッホ風、モネ風など)の絵になります。
その画家の目を通し、フィルタリングされることで、独自の個性的な描かれ方をしています。
誰が見ても、これはゴッホの絵、モネの絵などがわかるような絵。
それがスタイルの画家の描く絵画の特徴です。
アイデア
アイデアが持ち味の作品は、見る者に奇想天外な印象を与えます。
ワールドというほどの世界観でもなく、スタイルというほどの個性でもない。
でも、構図やモチーフなどに素晴らしいアイデアが詰め込まれていて、人々の心を魅了する。
齋藤氏は「アイデア」の画家を「アイデアマン」と呼んでいます。
よくぞこんなことを思いついた、といいたくなる人です。
有名な画家としては、サルバドール・ダリ(「記憶の固執」など)、マウリッツ・エッシャー(「滝」など)などです。


独自の視点、つまり着想力があります。
独特の面白みがあると言えるでしょう。
一本勝負
齋藤氏いわく、「私はこれ一本で食っていきます」という人たちのことです。
私がこれを選んだのは、おそらく「ざっくり」と冠したこの本でもなければ、一本勝負などというくくりで美術を語ることはできないと思ったからです。
グスタフ・クリムト(「アデーレ=ブロッホ・バウアーの肖像Ⅰ」など)、日本人アーティストの奈良美智(「春少女」など)などもこの中に入ります。


クリムトは金色と極彩色を組み合わせた特徴のある色彩感覚、奈良美智は「とんがった目」の女の子に一本感を感じます。彼らの作品のすべてに一貫して流れているテーマなのでしょう。
まとめ
今回、ご紹介させていただいた、
「うまさ」「スタイル」「ワールド」「アイデア」「一本勝負」
ざっくりですが、歴史もこの要素の順番通りです。
古代においては、個人のスタイルというものは重視されず、伝統的な様式や写実的なうまさが求められました。
それが、時代と共に変化し、印象派の時代となると、個人のスタイルやワールドが重視されるようになり、近現代にはアイデアが重要視されています。
最初にも触れましたが、本書は巨匠50人の作品の鑑賞の見どころが、齋藤氏の深い洞察と明晰な文章でわかりやすく説明されています。その他、抽象絵画の鑑賞法、さらに齋藤氏ならではの美術史観も展開されています。
今回、紹介した画家はこの本のほんの一部です。
他にスタイルではどんな画家がいるか知りたい、それぞれの画家の鑑賞ポイントをもっと深く知りたい、という人にとって、得るもののたくさん詰まった一冊です。
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