作曲家、自らを語る。『プロコフィエフ 自伝・評論』 S・プロコフィエフ 著 園部四郎/西牟田久雄 共訳

 

プロコフィエフさんこんにちは

皆様、セルゲイ・プロコフィエフという作曲家をご存知でしょうか?知っている方はクラシック音楽がお好きな方だと推測いたします!

知らない方も、こちらの曲をご存知の方は多いのではないでしょうか。

そう、ソフトバンクのCMで使われたりドラマで使われたりしているこの曲、実はプロコフィエフのバレエ「ロメオとジュリエット」からの抜粋なんです。

プロコフィエフは1891〜1953年に生きたソビエトの作曲家です。第一次大戦、第二次大戦、そして冷戦とソビエトの激動期を生き抜き、奇しくもスターリンと同じ日に亡くなりました。

ちょっと怖そう・・・?

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若くてイケメンだった頃

私にとって、プロコフィエフは大好きな作曲家の一人です。ピアニストとしても優秀だった彼は、ピアノを打楽器的に使ってピアノ音楽の新しい世界を広げました。その一方で、とてもロマンティックで叙情的な音楽も作り、「新古典主義」といって、現代音楽の中に伝統的な手法を取り入れたり、オペラやバレエ、演劇や映画のための音楽を作ったり、大変幅広く活動しました。今日はそんなプロコフィエフの自伝について書きたいと思います。

プロコフィエフの生涯

プロコフィエフが生きた時代は、第一次世界大戦、第二次世界大戦、そして冷戦と激動の時代でした。彼自身もソビエトに生まれ、一度はアメリカへ亡命し、そしてまたソビエトに戻りました。共産主義の波にもまれ、芸術活動も制限されてしまったりと、大変な人生を送ったプロコフィエフですが、自伝では愚痴はあっても悲壮感はあまりなく、実務的で皮肉屋、前向きな様子が感じられます。

プロコフィエフは一度アメリカに渡るわけですが、ソビエトとは全く違うアメリカの音楽業界の慣習になかなかなじめず、苦労します。「アメリカについた時には一銭もなくなってしまい、船で会った人たちが300ドル貸してくれた」と平然と書いているのがすごいです。こわいわそんなの。また、厳しいアメリカの入国審査時に、ある島(エリス島かな?)に3日間抑留されてしまい、

 

本文より

「今まで刑務所に入れられたことがあるか?」

「はい」

「それはよくない。どこの刑務所だね?」

「このあなたの島です。」

 

とかいう悪い冗談を言っているところはつい笑ってしまいました。プロコフィエフの音楽って、ちょっと人を馬鹿にしたような、冗談ぽいところがあるんですが、こういう性格からきているんだなあと思いました。

偉大な作曲家ですが、アメリカでのサバイバルに私は共感してしまいました・・・。ニューヨーク、シカゴ、カリフォルニアと大陸中を駆け回り、やっと劇場と契約して作曲も終わったプロジェクトが破棄になったり、コンサートの礼金を前払いで受け取らない限りぼったくられてしまうと書いていたり、そんな中で「三つのオレンジの恋」というオペラやピアノコンチェルト3番という傑作が生まれたんだなあと思うと感慨深いです。

恩田陸さんの「蜜蜂と遠雷」の中で、「生活者の音楽」というくだりがあり、「生活を立てるために働きながら音楽をする」キャラクターの苦悩がありましたが、私は音楽家はみな生活者だと思います。契約をとるために走り回り根回ししたり、コンサートのために地の果てまで飛んで行ったり、そんな中から傑作が生まれてるのだなと思うと、作曲家に、より尊敬の念がわき、そして勇気づけられます。

結局プロコフィエフはソビエトに戻るのですが、自伝はソビエトに戻ってからはあまり書かれていません。大変だったのかな。しかし評論は頻繁に書き続けておりこちらから自伝的なエッセンスも感じ取れます。「音楽と戦争」や「音楽と生活」など、興味深いテーマをいろいろ扱っていますが、かなり理想主義的でありながら、具体的な作品名や音楽分析を扱っていて面白いです。

現代音楽がコワイみなさまへ

音楽に深く関わる方はともかくとして、そうでなかったらなんとなく足を踏み入れづらい現代音楽の世界。ちなみに私は弾く側として個人的には、

「現代音楽を弾くのは楽しい」

と思っております!聴くのは疲れる時もあるんですが、弾く方はお客様のびっくりした顔を見られるのも結構楽しいんだな。普段とは全然違うアドレナリンが出てくるのも楽しいです。

とは言え、うーん、ちょっとなあ、と思うお気持ちもすごく理解できます。よくご質問を受けるものの中に、

「なぜ現代音楽はあんなに意味不明なのか?」

というものがあります。なぜなのか少し考えてみましょう。私たちが普段きいている音楽は、基本的には西洋音楽のルールに基づいて成り立っています。このルールは中世ヨーロッパの教会音楽(本当はもっとさかのぼれば古代ギリシャとかまでいきますが、あまり関係ないので省略します)を発端にし、主に教会と宮廷を舞台に発展し、その後市民文化の中に溶け込み、発展してきました。音楽室に貼ってあるポスターにいる作曲家は基本的にみんなその流れの中にいる人です。バッハもベートーヴェンも。

みんなが同じルールに従って音楽を作っていると何が起こるでしょう?似たようなものがどんどん量産され、みんなが飽きてしまう事態が起こります。そこに音楽家がどう対抗していくかといえば、それは新しいものを生み出し、新しい流行を生み出すという、古今東西、共通なやり方です。

ちょっと話がそれますが、今、「音楽史」と呼ばれているものはそういった変革の連続で成り立っています。名前が残っていく作曲家は、変革を起こした人です。これは「人間は常に進歩していく」という思想が元にあります。常に新しい発見があり、知識が塗り替えられていくという考え方が前提にあります。

だけど、音楽の役割は「新しいこと」だけを追い求めるだけではありません。音楽は「いつも通り」を提供し、慣れ親しんだ音楽によって人を安心させる役割ももっていますし、娯楽として人を楽しませる役割も大きいです。しかし音楽史はすべての出来事や作曲家をカバーするわけにはいきませんから、自然と「その時代に起きた最も大きな変化」を追求します。そういう意味では、私たちが今知っている「音楽史」は、歴史の全容をとらえているわけではなく、その時代に起きた「変化」、もっと言えばそれを「変化を起こした誰か」を追っているものだと思っていいのではないでしょうか。

話がそれました。とはいえ、100年200年、いや、もっと長い間変革をくり返していけばネタもつきるというものです。西洋音楽にはルールがありますから、そのルールをどう崩していくかというところにまず革命は始まりました。その中でアジアやアフリカの音楽を取り込み新しい響きの可能性を追求したり、どんどん進化していく楽器に新しい可能性を見出したり、作曲家は様々なやり方で音楽に変革を起こしていきます。

現代音楽に限界はあるか。~プロコフィエフの見解~

その先にたどり着いた「現在」があります。「現代音楽はある到達点にたどり着いた。ここから先にはもういけない。」という言葉を聞くこともあります。

プロコフィエフはこれに反論して、

「8つの音の短い曲だとしても単純に音を組み合わせるだけで六十億以上組み合わせができるうえ、リズム、ハーモニー、対位法などの組み合わせまで考えたら可能性は無限だ」

と言っています。シンプルだけど良い答えだと思います。実際にそれをやった人がいうと説得力がある。

さらに、

「人類の耳は絶えず変化している。」とも書いています。

 

「数百年昔の人々が喜んで聞いた音楽は、今日のわれわれには訴えてこない。逆に、ちっともメロディとは考えられなかったメロディが、数世紀後の今日では、美しい興味あるメロディと考えられている。」

「将来は、このように恐ろしいほどの可能性に満ちているのである。それを考えるだけでめまいがするほどだ。たとえば、太陽が輝きを失い、地球が冷却し、それから、ああ、恐ろしい!多くの死んだ遊星が、かつて太陽であった暗い星の周囲を回るようになるだろう。

なぜわれわれは、今から幾百万年もあとに起こることについて、心配しなければならないのだろう。実際によい音楽を鑑賞することを学んだほうがましではないか。」

 

突然表現がドラマチックになって面白いですね。プロコフィエフがこうやって考えていたんだなと知るのは、興味深いです。

おわりに

音楽を聴けば作曲家がなんとなくわかるものですが、私は作曲家が執筆したものを読むのも好きです。たいていの場合、自分が音楽から抱いていたイメージとは少しずれるのですが、プロコフィエフの場合も私にとっては彼の意外なポジティブさに触れることが出来て面白かったです。ソビエトについてポジティブなことばかり残っているのは、政治的な立場もあるかと思いますが、強制されて書いているばかりでもないようにも思ったのでそれもとても興味深かったです。

本人が書いたものは第一次資料となるので、いろいろ意味を捻じ曲げて解釈しようがない明快さがあります。みなさまもこれを機会にプロコフィエフの音楽に触れてみてはいかがでしょうか?魅力に目覚めるかもしれません!

下にいくつかおすすめの曲を貼っておきます。

ピアノコンチェルト第3番

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ロメオとジュリエット

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ピアノ・ソナタ第7番

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そして、プロコフィエフの自伝!

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埼玉県出身、東京- NYを経て、今はミシガン州立大学で音楽学部の博士課程に在籍中。 専攻はピアノ。 よく読むジャンル→ミステリー、ファンタジー、エッセイ、恋愛もの、歴史物、伝記、ノンフィクション、児童書 アメリカ中西部でピアノを弾いたり音楽について学んだり書いたり教えたりしています。 本を読んで現実逃避して寒さに耐えています。