人はいろんな面からできている ハンス=ヨアヒム・シェートリヒ 著 松永美穂 訳「ヴォルテール、ただいま参上!」

みなさま、こんにちは!のいです。今日は18世紀に生きたフランスの思想家、ヴォルテールと、彼に心酔していたプロイセンの王、フリードリヒ二世の不思議な友情について描かれた小説「ヴォルテール、ただいま参上!」についてご紹介します。

歴史上の有名な人物を扱うと大河的になりやすかったり、無駄に悲劇的なトーンになったりするものですが、この小説は逆。登場人物の日常や、残されている手紙を淡々と拾い上げることで、鮮やかに人物像を浮かび上がらせています。

ヴォルテールとフリードリヒ二世って誰?

この人です。終。

すみません笑、手短に書きます。フランスの裕福なお家に1694年に生まれ、若い頃から文才を発揮しました。舌鋒の鋭さから若い頃にはバスティーユに投獄されたことも。解放された後イギリスに行き、かの国の哲学に大きく影響を受けます。その後フランスに戻り、その後ヨーロッパに広がる「啓蒙思想」を広めた一人になりました。多くの著作や演劇を残しています。

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こちらはフリードリヒ二世。プロイセンの王様です。ヴォルテールに心酔し、啓蒙思想をベースにした国家を築き、プロイセンの近代化を進めました。また教養豊かで、フルートの演奏にも秀でていました。残した文献も多くあります。軍事的にも優れていましたが、それはヴォルテールとの間に溝をうみました。

この小説は、手紙から二人の交流が始まったところから始まります。

書簡や史実から浮かび上がる人物像

二人の偉大な人物ですが、作者が出してくるエピソードからは意外な素顔が浮かび上がってきます。

例えば、ヴォルテールが投資に熱心だったということ。文筆業や思想家としての収入だけでは十分でなく(いつの時代も一緒ですね)、経済的に自立して好きなことが書きたかったヴォルテールはかなりお金に細かく、フリードリヒ二世に交通費の請求をしている手紙なんかも作中に出てくるのですが、こういう一面は面白いです。また、国が売り出した宝くじを全部買い占めてしまえば、賞金額の方が高いということを友人の数学者とともに発見し、くじを買い占めてしまい、50万リーブルもの利益を得ていたというエピソードも大変面白いです。フリーランスの鑑だよ・・・

お金の使い方を見ると、その人の別の面が見えてくるものですが、ヴォルテールもその一人ですね。

フリードリヒ二世にも、プロイセンというドイツ語圏の国の王でありながらドイツ語やドイツ文化を嫌悪しておりドイツ語が苦手で、フランス語の方が堪能だったというエピソードが出てきます。ドイツ語で書かれた手紙は文法がめちゃくちゃで誤字も多く、内容を読み取るのが難しいものだったようです。また、男色家であるという噂が絶えなかったり、ヴォルテールをアイドルと崇めて肖像画を壁に飾っていたり、意外な一面が多く見えます。王制というのはなかなか現代の我々には想像しにくい制度ですが、そこで王として生まれて生きたフリードリヒ二世の人生を上手に描いていると思います。

もう一人、「こんな人いたのか!」と思ったのが、ヴォルテールの彼女、エミリー・ド・シャトレ。

この時代の恋愛関係は、政略結婚→自由恋愛、と進むので、あらゆるところで愛人が出てきて混乱しますが、ヴォルテールとエミリーも愛人関係にあります。エミリーの夫はシャトレ侯爵ですが、戦争の話が好きな夫と知性豊かなエミリーは話が合いません。そこに現れたヴォルテールとエミリーは惹かれあい、共に暮らすようになりました。こういうのがごく自然に進む時代だったのですね。

このコンパスと本を共に描いた肖像画からもわかる通り、エミリーは女性科学者の先駆け的存在だった人で、ニュートンの「自然哲学の数学的諸原理」をラテン語からフランス語へ翻訳したり(今でも使われているようです!)、赤外線の存在を予測した論文を発表した大変才能豊かな方だったようです。ウィキペディアには「数学者、物理学者、著述家」とあります。敬意を評して金星のクレーターの一つに彼女の名前がつけられているそうです!

歴史の中では女性の資料が少なく、隠れてしまうことも多いと思うので、こういう魅力的な女性の存在がもっと広まったらいいし、さらに研究が進めばいいなあと思いました。

啓蒙思想とは

そもそも私がこの本を読んだのは、啓蒙思想について調べていた時に専門の方におすすめいただいたのがきっかけです。18世紀にカントやルソー、そしてヴォルテールから始まり、近代社会へと西洋諸国がぐいっと押し進んだきっかけになりました。

教会が中心だったそれまでの宗教的な思想が中心の社会から、理性を重んじ、科学と宗教を分離していったこの思想は、その後の西洋社会を大きく変え、フランス革命を起こすきっかけに至りました。

「どんな思想にも欠点はある」

と言います。最終的には多くの血を流すことになったこの啓蒙思想ですが、ヴォルテールの生き様や書いたことを見ると、とても興味深いです。差別廃止、教育の重要化、拷問廃止など、多くの人道的行為が啓蒙思想のもとに行われました。

さて

最後に、私がなぜ啓蒙思想について調べていたかですが、それはもちろん、この講座があるからです。

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宣伝でごめんね。笑

1770年生まれのベートーヴェンは、啓蒙思想が大いに高まりフランス革命が起きた1789年にちょうど多感な18-19歳。大いに影響を受けました。

「ベートーヴェンて本当にすごいんですか?」

と聞かれたことがありますが(素直な質問で素晴らしい)、

ベートーヴェンはちゃんと本当にすごい人です。

なぜすごいかというと、彼はそれまでの作曲のルールを塗り替え、常識を覆した音楽界の革命家でもあるからです。また、耳が聞こえないながら作曲を続けた「不屈の音楽家」というイメージは啓蒙思想の「理性に照らされ人間は進んでいく!」といったイメージとの相性もバッチリで、才能ばかりでなく運も手伝い、この時代のアイコン的な存在になりました。

ベートーヴェン自身は芸術家の自由や独立をうたっていましたが、何気にビジネスも下手ではなく、かなりの高収入を貴族のパトロンから得ていました。ヴォルテールと同じく、お金に抜け目がなく報酬を巡って裁判まで起こしたことのあるベートーヴェンのお話からはじめ、フランス革命ののちに急速に広まったナショナリズムの流れにどう音楽家たちが影響され、生きていったか、ということをお話したいと思っています!

お時間があれば是非。

最後は自分の宣伝になってごめんなさい。笑

でも、とても面白い本なので是非ご一読ください!

ABOUTこの記事をかいた人

埼玉県出身、東京- NYを経て、今はミシガン州立大学で音楽学部の博士課程に在籍中。 専攻はピアノ。 よく読むジャンル→ミステリー、ファンタジー、エッセイ、恋愛もの、歴史物、伝記、ノンフィクション、児童書 アメリカ中西部でピアノを弾いたり音楽について学んだり書いたり教えたりしています。 本を読んで現実逃避して寒さに耐えています。

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