いくつまでが女子なのか問題。奥田英朗 著『ガール』

こんにちは、のいです。

かつてわたしが高校に入学した時、憧れの先輩はこう言いました。「高校生活を無駄にしちゃダメよ。あっという間にすぎるんだから」

その後わたしが大学に入学した時、別の美しい先輩がこう言いました。「良いなあ、一年生。大学四年間なんてあっという間だよ」

そしてわたしが二十歳になった時、また別の麗しい先輩が「二十代は本当、あっという間にすぎるよ」と言いました。

現在わたしは28歳になり、かつて先輩たちから賜った言葉を痛いほど実感しています。高校も大学も、二十代も信じられない速さで駆け抜けていきました。そしてわたし自身も現在、時々誰かに似たようなことを言ってしまいます。

「時間はあっという間にすぎるよ」と。

でも、時間があっという間にすぎるからって一体なんだというのでしょう?過ぎていった時間は無駄だった訳ではないはずです。少なくとも十年前と比べれば自動車免許もとったし、味噌汁も作れるようになったし、新宿駅には新南口と南口があることも知ったし。

そうやって増えた知識と経験にも関わらず、わたしの中には年齢と共にかさ増ししてくる漠然とした不安な何かがあります。そしてわたしはその感覚があまり好きではありません。わたしは、年齢を重ねることが怖いと自分が思うことが嫌です。年を重ねるから、といくつも自分に小さな保険をかけてしまうのもちょっと情けないです。そういうことをするたびに、つい、「怖がりめ!」と自分を叱咤したくなるのですが、自分の感情はコントロールできません。

今回の書評は、こんな風に時間があっという間に過ぎて、ちょっと不安な人に読んで頂きたい奥田英朗さんの「ガール」です。

アラサーがベストな読みどきです

奥田英朗さんは「イン・ザ・プール」をはじめとして、「家日和」「ナオミとカナコ」など人気作品の多い作家です。今回ご紹介する「ガール」も2012年にドラマ化しました。(今予告編を見たらキラキラしていて眩しくなりました)この小説には5つの短編が入っており、どの短編も30代の女性が主人公です。皆企業戦士としてバリバリと働いている素敵なおねいさんというところが共通点です。30代の女性が主人公の名作というと漫画の「東京タラレバ娘」が真っ先に思い浮かびますが三人の独身アラサー女性が主人公だったタラレバ娘とは違い、今作では登場人物はシングルだったり既婚だったりお母さんだったりと様々な立場の人がいます。

実はわたしはこの作品を大学生の時に一度読んでおり、今回は再読ということになります。かつて読んだ時にはピンと来なかったところが今回読んだらかなり心に迫ってきました。アラサーのあなたに是非おすすめしたいところです。

『ガール』

表題作にもなっている「ガール」をご紹介します。主人公は大手広告代理店に勤務する32歳の由紀子。美人で、オシャレが大好きなのですが、ここのところ少しずつ、甘やかされなくなったり「ガール」扱いされなくなったり、年齢を感じています。ところが同じ会社にいる仲良しの「お光」先輩は一向にそんな空気を感じ取ることもないようで、38歳でもミニスカートをはいたり、好きなように過ごしています。そんな彼女に違和感を持ちつつも何となく憧れる由紀子はあるプロジェクトにお光と一緒に取り掛かることとなり・・・。

これ、かつて読んだ時はちょっと衝撃でした。当時、大学一年生ほどだったわたしはこの短編集の中で度々登場する「若い女」枠に属しており、「女性は年齢によって着る服を変えなくてはいけない」とは考えたこともなかったのです。いつも好きな服を着ており、リボンもフリルもピンクも何も怖くありませんでした。なので「ガール」を読んで初めて年齢とファッションの関係について考えたと言っても良いです。再読するに当たってその頃の自分を思い返し、怖いもの知らずだったなと思ってしまいました。

今回再読したら「ガール」は衝撃的な話ではなく、身近な話になっていました。わたしは人は年齢関係なく好きな服を着ればいいじゃないと思うのですが、よく考えてみたら自分のファッションも随分大学時代から変わっていたことに気づきました。いつのまにかクローゼットには黒が増えています。スカートもあまりはかなくなりました。「その場所に合わせよう」と空気を読んで適応しようとした結果でもありますが、周りを気にして起きた変化であることも確かなのでした。その場や年齢のステレオタイプに染まっていくのも楽しいですが。

いろんな生き方を受け止める

女は生きにくいと思った。 どんな道を選んでも、ちがう道があったのではと 思えてくる。

奥田英朗. ガール (講談社文庫) (Kindle Locations 1635-1636). 講談社. Kindle Edition.

この言葉、女性限定とは言わず色々な方に当てはまるんじゃないかなと思います。どんなに一生懸命自分を励ましたり慰めても、「あの時こうしたらよかったのかなあ」と考えたことがない人はいないように思います。

自分に自信がある時は余裕を持って色々な生き方を受け入れられるけど、一旦自信がなくなると、他の生き方をしている人が受け入れられなくなってしまうことがあります。そういう時に、こういう小説を読むと何だか自分も他人も肯定してくれている気がして、解放されてホッとします。

さて、最後にタイトルにした「いくつまでが女子なのか」問題ですが。

わたしは今、ある合唱グループで伴奏をしています。平均年齢は大体60歳くらいの地元のおばあちゃんたちの集まりです。何となくほのぼのした雰囲気がありわたしも「優しいおばあちゃん」というイメージを持っていたのですが、このグループ、メンバー皆を呼ぶ時には「ガールズ」と呼びます。「ガールズ、前に集まって!」「ガールズ、スケジュールについて相談しましょう」といった感じ。

これが大変チャーミングなんです・・・!!!

という訳で、「ガール」でいるのに年齢は関係ないようです。顔も立場も関係なさそうです。

生涯一ガール。きっと自分もその道を行くのだろうと、由紀子は思った。この先結婚しても、子供ができても。そんなの、人の勝手だ。誰にも迷惑はかけていない。

奥田英朗. ガール (講談社文庫) (Kindle Locations 1707-1709). 講談社. Kindle Edition.

楽しく生きたいですね!

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ABOUTこの記事をかいた人

埼玉県出身、東京- NYを経て、今はミシガン州立大学で音楽学部の博士課程に在籍中。 専攻はピアノ。 よく読むジャンル→ミステリー、ファンタジー、エッセイ、恋愛もの、歴史物、伝記、ノンフィクション、児童書 アメリカ中西部でピアノを弾いたり音楽について学んだり書いたり教えたりしています。 本を読んで現実逃避して寒さに耐えています。