自分以外の人生を、歩んでみたいと思ったことはありませんか?はあちゅう 著『仮想人生』

こんにちは、すーちゃん(@suexxsf)です。
ご無沙汰してます、2週間ぶりの更新です。

気づけば12月ももう折り返しで、びっくりしています(笑)
やっと書きたい書評を書けることになって、ホッとしています。

今回ご紹介するのは、2019年1月に発売予定のはあちゅうさんの『仮想人生』です。
縁あって、プルーフ版を受け取り、店頭販売の1ヶ月ほど前に読ませていただきました。
編集の方からも許可を得たので、書評という形で書かせていただきます…!

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(そもそもプルーフも読むのも、発売前の本を手にするのも初めてで、アパートのポストに届いてめちゃくちゃ喜んでいました。ありがとうございます!!!)

※まだ店頭にも並んでいない小説の書評を書くのは初めてで、どこまで書いていいのかという線引きも、正直あやふやで書きました。
結局、いつもの書評同様、自分の話になったという反省点はありますが、少しでも作品の良さが伝われば…と思います。

裏アカウント小説

表には見せられない世界

皆さんは、“裏アカウント”ってご存知でしょうか?

わたしは一時期、最大Twitterアカウントを6つも持っており、仲のいいフォロワーにはよく「ツイ廃(=Twitter廃人)」と言われていました。
今回、本作で取り上げられた裏アカウントは、当時のわたしのアカウントの中で「18禁アカウント」と名付けていたものが当てはまる気がします。

本作は5人の主人公が、それぞれの理由で裏アカウントを始める物語。
帰宅が遅い旦那を待つ時間を潰すため、ナンパ目的、童貞食い…など、表には書けないような濃厚な世界が、そこには広がっています。
似たようなアカウントを一時期持っていたわたしも、自分のタイムラインを眺めているような気持ちになり、一気に読みました。

誰かに成り代わりたい、という願望

「ユカさんはないですか。仮面を付け替えるように、誰かに成り代わりたいと思ったこと」

これは、主人公のひとり・ユカが、旦那の後輩である年下の男の子に言われる言葉です。

自分以外の誰かの人生を歩んでみたい、別の誰かになりたい、という気持ち。
誰しも持っているのではないでしょうか。

最初は匿名のネット上だからこそ、普段とは違った側面や着飾った部分を見せられると思っていました。
しかし考えてみれば現実の対人関係でも、職場の人や家族、恋人とそれぞれに見せる顔は違いますもんね。
Twitterの話でありながら、リアルの話にも結びついていきます。

わたしの、裏の部分

根底にある承認欲求

※ここから話がディープになります。

前述の18禁アカウントの位置づけは、自分の中の人格のひとつというか、性欲が強いのも自分、という捉え方をしていました。
そして、それが「承認欲求」に起因するということは、早くから気づいていました。

本作にも何度か登場する、承認欲求。わたしは当時、それを男の人に抱かれることで埋めていました。
正確には埋められていません。満たされるのは一瞬ですから。
そうとわかっていても、それ以外の方法が分からず、そんな男遊びばかりしていた時期がありました。

安い、欲求不満の解消方法。簡単にちやほやされるし、抱かれた瞬間だけ満たされる。
認められた、自分を必要とされた、と錯覚するのです。
今となればそれが勘違いだとわかるけれど、あの当時はそうでもしないと、寂しさを埋められず、ひとりが怖くて仕方がなかった。

けれど、その男遊びで悟りました。
いくら体を重ねても、経験人数が二桁に突入しても、何も変わらない。
自分自身が冷めていき、次の瞬間に心が乾くのが実感できますから。

自分の心の傷口をふさぐ

承認欲求は本当に厄介で、定期的に、今も襲ってくることはあります。
もう以前のようなことはしませんが、本作を読みながら、過去のことを思い出しました。

彼とセックスしたおかげで、セックスは何も変えてくれないことがわかった。(中略)承認欲求や、日々襲ってくる寂しさは、セックス1回くらいではおさまらない。

「鉄平君ってうまく言葉にできない感情を、体を使って発散するよね。わかってる。だからナンパして女の子と寝まくってるんでしょう。自分の心の傷口、ふさぎたくて」

承認欲求は、セックスなんかじゃおさまらないことは、本作の中でも書かれていて、同感です。
特に、「自分の心の傷口をふさぐ」という表現が、自分の中ではしっくり来ました。

ラストシーンに向けて

個人的に、ラストに向けての畳みかけ方が好きですね。
これはぜひ読んでほしい部分ですが、ずっと旦那に寄りかかってばかりだったユカが、一人で立ち、そして一人で生きていこうとする姿が素敵です。

いつか、作家の人が「書くことで自分は救われている」と言うのを聞いたことがあるけれど、私にとっての救いは料理だ。そして、私にとっての料理は自分のために作るものではなくて、誰かのために作るものだから、よりいっそう救いの要素が強い。

はあちゅうさんの小説の、ひとつひとつの単語を大事にされている感じが、とても良いと思います。
上記の引用部分では「救い」という表現が好みです。

人生は自己肯定の旅

「モテなくはなかった気がするけど、実際にモテたかどうかじゃなくて、自己認識なんですよ。(中略)どうやったら自分の人生に折り合いをつけられるかとか、どうやったら自分の人生にこれまでに起きたことを肯定出来るのか、模索しているんです。人生なんて自己肯定の旅ですよ」

この部分が、自分にも刺さりました。
自己肯定の旅、確かにそうかもしれません。

あんな男遊びをしていた時期も、今はもう懐かしく、こうやって笑いながら話せます。
(貞操観念だとか、人間性を疑うとか、そういうのはまた別の問題)

こうやって、少しずつでも過去の自分を肯定できるような生き方をしていきたいです。

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ABOUTこの記事をかいた人

1992年、愛媛県生まれ。愛知県在住。『わたしの本棚』ライター。 好きな本のジャンルはミステリー。読書歴は約10年。辻村深月、東野圭吾、森絵都、恩田陸、原田マハ、村山由佳作品をよく読みます。(敬称略) 辻村深月作品が特に好きで、情報収集や考察が日課。また、作品の舞台になった街へ赴く、聖地巡礼も楽しい。 今まで読んだ本で1番好きなのは、辻村深月 著『子どもたちは夜と遊ぶ』。何度も読み返してるのは、同じく辻村深月 著『スロウハイツの神様』。初めて読んだ高校時代から現在も、わたしに影響を与え続ける、大切な作品たち。 読書の他に、アルトサックス、お菓子作りも好き。