こんにちは、すーちゃんです。
今までも2度ほど、わたほんで紹介させていただいています、千早 茜さん。
彼女の作品、とても好きです。
文庫『あとかた』の重版
最近Twitterで、『あとかた』の文庫の重版が決まったと知りました。
新帯になった文庫「あとかた」が重版になりました。ありがとう、チームあとかた! 2年以上前にでた文庫が、時間がたっても届き続けているのは本当に嬉しいことです。
解説は小池真理子さん、装画は岩渕華林さんです。 pic.twitter.com/98xkfgcFuJ— 千早茜 (@chihacenti) October 6, 2018
図書館で借りて読んで以来だったなぁと思い出し、書店に買いに行ったあと、家でもう1冊見つけました…(笑)
ほんとにいつ買ったんだろう、全然覚えていません…

先日書評も書いた、『男ともだち』でハマり始めた千早さん。
一時期は、図書館で片っ端から、彼女の作品を借りて読んでいました。
その頃から好みだった『あとかた』を、今日はご紹介します。
島清恋愛文学賞受賞作
本作は、島清恋愛文学賞受賞の、恋愛連作短編集。
ある男を軸に、関わった人の物語かと思いきや、少しずつ視点が変わっていきます。
ほむら
結婚を控え、変化を恐れる私の前に現れた、実体のないような男。彼との演技めいた快楽に溺れる私。
不思議なことに、わたしには、主人公を責めることはできなかったです。
きちんと相手がいるのに、他にも男がいる、って聞いてパッと思い付くのは『男ともだち』のときの神名ぐらいしかいませんが、どちらにせよ同じ状況になれば「わたしもやりかねないな」と思ってしまいます。
けれどこの主人公・私にとっては、男との情事も必要だったのだろうと思います。
二人の火は何かをかたちづくることも無かったけれど、あの瞬間、互いに互いを求めていたのでしょう。
「怖がらなくていいんですよ。ちゃんと相手と傷つけ合ってどろどろになっていくといい。かたちなんて何回壊してもいい。膿んで腐って、それすらも乾いてしまって、諦めきった頃にあんがい欲しかったものなんてぽろりと転がっているのかもしれませんよ」
男の達観しきったこの言葉、わたしにもじんわり効きました。
やけど
傷だらけの主人公・サキは、高校の同級生・松本の部屋に転がり込んでいる。
大学には行かずたまにバイトして、金曜日にはアイリッシュパブでフィドル(バイオリン)を弾く千影さんの演奏を聴きに行く。
本当にわからないのだ。
強く抱きしめることが愛で、抱きしめることでできる痕が暴力だとしたら、その境目は一体どこにあるのか。同じじゃないか、と思う。
昔 愛した男が彫った刺青が背中にあり、学生時代は後ろ暗い噂が絶えなかったサキ。
今も行きずりの男と関係を持つこともあるが、住まわせてもらっている松本だけは、そういうことを言い出さない。
からだを求められないと、あたしはちょっと調子が狂う。ため息なんかもらしてしまう。
こういう、地の文で表現されるサキの気持ちが、すっと心の中に入ってくる感じ。
この「ほむら」はラストシーンが好きですし、そのあとの「うろこ」も一緒に読んでほしいです。
ねいろ
最後の「ねいろ」は、フィドル弾きの千影さんの物語です。
海外で災害医療をする彼氏のために、いろんな気持ちを我慢している千影さんを見て、昔の自分が重なりました。
今となればやっと理解できますが、例えば彼氏が仕事に追われて連絡が取りづらくなったときに、こうやってわたしも我慢を重ねていたことを思い出します。
ひょんなことがきっかけで知り合った、熱帯魚屋のお兄さん(水草くん)とのやりとりが素敵です。
「多分、この世は不安定で、何もかもが簡単に壊れてしまう。変わらないものなんかないし、何か遺せたとしても一瞬で消えてしまうかもしれない。それでも誰かを好きになって生きていくことはすごいことなんだって、おれは思うよ」
現代人の空虚
解説で小池真理子氏が「現代人の空虚は奥が深い」と書かれていて、ハッとしました。
この短編の中で描かれているもの、そして最近自分がずっと抱えていて、けれどどうしたらいいかわからないもの、それが「空虚」なのだと気づきました。
現代人の孤独と空虚。
それを優しく包み込んでくれるような小説です。
この小説が必要な人に届きますように。