こんにちは!すーちゃん(@suexxsf)です。
本日ご紹介するのは、高殿 円さんの『政略結婚』です。
もともとわたしは、女性が強く生きていくような小説に、勇気づけられることが多いです。
今までにも、原田マハ 著『翼をください』(→書評)、『奇跡の人』(→書評)等を読み、書評を書いていました。
今回も、大好きな作品です。
本作の魅力
江戸時代、明治・大正時代・昭和時代。
移ろいゆくそれぞれの時代で、強くたくましく生きた女性を描いた小説です。
変化する結婚観と仕事観。それぞれの女性の決断、グッと来ます。
(紹介PV)
著者・高殿 円さん
今回、本作を久しぶりに読み返しました。
高殿さんの他の作品では、『カーリー』シリーズや『シャーリー・ホームズと緋色の憂鬱』を読みました。
最近、『トッカン』シリーズや『上流階級』も気になっています…!
最近では、ひとつ前の大河ドラマ「おんな城主 直虎」のもとになった『剣と紅』(原作とはまた違う位置づけのようです)、舞台化された『メサイア』シリーズの原作で有名かと思います。
個人的には、高殿さんのTwitterが大好きです。
息子さんの、エレベーター愛が素敵!
3人の主人公
第1章 てんさいの君:勇(いさ)
この物語の主人公は皆、裕福な家の姫君。
勇だけは、実在の人物がいるそうです。
生まれてすぐ、許嫁が決まるような時代。タイトル通りの「政略結婚」。
今の世の中、女に生まれれば嫁ぎ先が全てである。そしてそれを決めるのは自分の力ではないのだ。
という、今では考えられないようなこともあったような時代。
「そういう時代」だと一言では収められないような、多くの葛藤や悩みも、彼女らにはあったでしょう。
住み慣れた金沢を離れ、江戸で暮らす勇。
さとうだいこん(=てんさい)のように甘い、利極どのと結婚する。
“家”が重視され、途絶えることを恐れていた、そのような時代。
慣れないお勤めに苦労しつつ、必死で生き抜き、託されたお役目を全うする勇。
お家を守ることは人を守ること。
これは、勇の壮大な成長物語のようにも感じました。
第2章 プリンセス・クタニ:万里子(まりこ)
時は明治。
幼い頃から海外で暮らしていた万里子は、日本のことを毛嫌いしていたが、13歳のときに日本に連れ戻されます。
そして子爵家の娘として、学習院に通うことになる。
学習院で仲良くなった美子の兄・雅高を始めとする、不思議な縁に導かれ、万里子は九谷焼に興味を持つ。
サンフランシスコ万博にて、華族出身のコンパニオン・ガールとして万里子は活躍します。
そこで知る、伝統。
日本にいたときはただただ重苦しい、煩わしいとしか思っていなかったもの。
家柄や、そのバックグラウンドさえも、交渉術として突き進む万里子さまは、本当に格好良く、憧れる。
「(前略)伝統とは決して古い形式や形骸化した威信ではない。かつて先祖が遠い昔に下した正しい決断のひとつであったのだと」
自分の意思で道を切り拓く彼女は、同じ女性として誇らしい。
本作に登場する3人の主人公のうち、万里子さまが1番好きです。
九谷焼、嫁入り道具に勧めたいですね。
一族が永く、続きますように。
第3章 華族女優:花音子(かのこ)
伯爵家の令嬢として、美しく豪華な家で暮らしていた幼い頃。
いつも音楽が家の中で流れていた音楽道楽の一家だったが、昭和の世界恐慌で生活は激変。
財産をすべて失い、家も手放すことに。
その後は新宿のレビュー劇場で、女優として活躍するようになる花音子。
ここからのし上がっていく様子が、とても好きです。
劇場に来た若者が、お目当ての女優に薔薇を一輪投げ入れる話が、作中にありました。
これが愛の言葉だとわかっていながら、女優は見向きもしない。
女優のヒールに踏まれる薔薇を見て、投げ入れた者は満足するという退廃的な美学。
とても興味深いです。
ああ叶うなら私だってここに立ち、誰よりも多くの花を投げ入れられ、誰よりも多くそれを無視したい。薔薇が雨のように注がれるその中で、生きてやわらかな花をこそただ気まぐれに踏みたい。
「私、ここで誰かの好意を無下にしたいわ」
今は無き「華族」という制度に興味があり、特に戦前の華族のお嬢さまという設定がツボです。
没落華族…まさに斜陽の時代で、衰退していく流れと、自分の足で立ち、そこにたちう太刀打ちする花音子の強さが、この短編の好きなところです。
女性にはもちろん、男性にもぜひ読んでいただきたい一冊です!