7月の後半企画、「夏の本」特集。
何を紹介するか、めちゃくちゃ迷いました。
本棚とにらめっこして、「これ、舞台は夏だったはず」「いや、ホラーもありだ」みたいな、脳内会議を繰り返した末。
本日、わたしが推すのは、辻村深月 著『島はぼくらと』です。

『島はぼくらと』について
概要
2012年に『鍵のない夢を見る』という作品で、直木賞を受賞された辻村さん。
田舎でもがき苦しみ、戦いながら生きる女性を描いていました。
その受賞後第一作が本作。透き通るようにキラキラした青春。
これもある意味、島という田舎が舞台なのです。
同じ田舎でも、ここまでアプローチが変わるものか、とおもしろく感じます。
(その他にも『名前探しの放課後』や『太陽の坐る場所』『水底フェスタ』それぞれ雰囲気は違えど、地方都市が舞台なのは同じなので、良かったら読み比べてみてください)
本作は、雑誌ダ・ヴィンチの2013年8月号で「今月のプラチナ本」として紹介され、2014年の本屋大賞では第3位になりました。
特設サイト book-sp.kodansha.co.jp/topics/shimaboku/index.html
あらすじ
舞台は、瀬戸内海に浮かぶ島・冴島。
本土にはフェリーで片道450円、20分ほどの距離。
島には高校がないため、同級生の朱里、衣花、源樹、新は、フェリーで本土の高校に通っている。
観光客が探す「幻の脚本」、シングルマザーに優しい島、母子手帳への想い、「兄弟」…
これが青春か!と思えました。瀬戸内海の島に行きたくなります。
母子手帳への想い
冴島はIターンの人をどんどん受け入れるが、島に生まれた子どもは、早ければ中学卒業と同時に島を出る。
それが当たり前で、遅いか早いかの話。
島の子どもは皆、いつかここを出て行くことを前提に育つ。
朱里たちが進学した高校に進学すればまだ一緒にいられるが、そうじゃなかったらお別れはすぐ。
その話を聞き、冴島ではオリジナルの母子手帳を作成されました。
母子手帳なんて、生まれて数年の記録くらいに思っていたのに、島を離れる子どもに、記念の儀式のように、オリジナルの母子手帳を持たせるというのはグッと来ました。
母子手帳に、そんな重みもそんな力もあるだなんて。
わたし自身、高校卒業のタイミングで実家を出て、早7年。
島の母親たちじゃないけど、やはり出ていく子どもへ思うことがあったのでは…と、親の気持ちを想像しました。
自分がいつか母親になる日が来たら、母子手帳にその子への想いを託したいとさえ思いましたね。
名言:「別れる時は絶対に笑顔でいろ。後悔することがあるかもしれんから」
これは新の父親の教え。
祖父との死別がきっかけのようですが、この言葉は本作の全編にわたってのテーマなのかもしれません。
特に、網元の家に生まれ育ち、冴島に残る衣花は、いつも送り出す側。
「寂しいとか、寂しくないとかじゃないよ。友達じゃなくなるわけじゃないし」
「寂しくないの?」と聞かれた朱里が、こう答えたのが印象的でした。
故郷が恋しくなる1冊
今回のテーマは「夏」でした。
本作の主人公にとっては、島で一緒に暮らす最後の夏。
彼ら、彼女らと一緒に駆けた夏は眩しく、とても愛おしい日々でした。
わたし自身も、故郷が恋しくなりました。