本屋大賞後第一作!辻村深月 著『噛みあわない会話と、ある過去について』

はじめに

辻村深月 著『噛みあわない会話と、ある過去について』を読んだ。


昨年5月に刊行された『かがみの孤城』で、2018年本屋大賞を受賞後、第一作目となる本作。
Amazon kindleや、他の短編集で読んだものもあるが、再読する気分で購入。

ナイフのように自分の胸を刺すような、奥底まで響くような、そんな短編集。心して読むべし。
今回の書評では、4編の中で、冒頭の3編を取り上げる。

特設サイト http://kodansha-novels.jp/1806/tujimuramizuki/

ナベちゃんのヨメ

大学時代、コーラス部の同期だった男友達・ナベちゃんが結婚する。
同期からの祝福ということで、久しぶりに集まることになった。
そこで紹介されたナベちゃんの婚約者は、どこかズレた言動をする。戸惑う私たち。

大学時代、女子に信頼されて女子に近かったけど、男子としては1番遠かったナベちゃん。
女子はみんな、彼が何を求めているかわかった上で、応じなかった。

「ナベちゃん、幸せなんだよ。相手に必要とされて、自分も相手を必要として。そういう人に巡り合えたんだよ。それでいいのかよってみんなは言うけど、きっとそれでいいんだよ」

最後の「人の嫁を嗤う(わらう)権利は、私たちにない」という一言がグサッと響く。
魚の小骨が、喉の奥に詰まったような感覚だった。

パッとしない子

タイトルを聞いたとき、この作品のこと?と思ったが、冷静に考えたら、タイトルは全作品に通じる言葉だった。
わたしの中では、本作の中で1番、胸に突き刺さったままの作品。

あらすじと展開

美術教師の美穂には、アイドルになった教え子・佑(たすく)がいる。正直、美穂から見た小学生時代の佑は「パッとしない子」だった。
ある日、佑がテレビ番組の収録で、母校を訪れることとなった。そのときにタイミング良く、話をすることに。その再会で明かされる真実とは。

「みんな悪気なく、こっちが傷ついたりするかもしれないなんてこと考えずに、とにかく知ってることはすべて口にしちゃうんです。相手がどう思うかじゃなくて、知ってるっていう親近感を出す方が好きなんでしょうね」

自分に近しい人が有名になったとき、それ以前を知っている人は、周りに自慢したくなることもあるだろう。
美穂も、そんな軽い気持ちだったはず。
しかし、佑は「その自由をあなたにだけは許さない」と言い放つ。

言ったかどうかはわからない。
(中略)問題は、佑が美穂がそう言ったと思っている、そう記憶している、ということだ。

佑が記憶している、数年前の過去が、今の美穂を刺す。容赦なく突き付けられる言葉の数々。
これはきっと復讐以外の何物でもないのだろう。

あの頃、若く人気の女性教師だった自分が、軽い気持ちで教え子に発した言葉。
それが、数年経った今、自分を縛る。鋭いナイフになって、美穂のもとに返ってきた。

そして、彼は言う。

「世の中に尊敬しなくていい大人もいるんだ、と。佐藤先生は、ぼくにそれを教えてくれた、初めての人です」

ママ・はは

毒親という言葉がある。きっと、この短編に登場するのは、それなのだろう。
同僚の引っ越しを手伝いながら、真面目すぎる母親に突き合わされた過去について聞かされる。

「大人になってからも威厳を保ち続けようとする親もいるかもしれないけど、親も親だってことに胡坐をかいていると、いずれ子どもに復讐される時が来るよ」

母からの支配が苦しくなり、「いっそこの人が継母だったらいいのに」と思った同僚。
この言葉には、ショックを受けた。

「自分で本格的に断ち切りたいと思わない限り、支配は続いちゃう。(中略)こっちの人権なんて考えてもらえない」

そこから同僚の周りで、不思議なことが起こる。
親からの支配や、束縛から逃げられない人に、読んでいただきたい。この展開を見届けてほしい。

そういうお母さんは、きっとそのうちいなくなるよ

さいごに

ここまで書いた3編と、もう1編「早穂とゆかり」という短編もある。
それをすべて読んで思ったことは、本作のテーマは「復讐」なのかもしれない、ということだ。

いつどこで、誰を傷つけてしまったか。無自覚こそ恐ろしい。
自分の過去の言動を一度考え直したほうがいい、とさえ思った。
そうやって嘘がうまくなるような、大人にはなりたくない。