官能の世界を味わい尽くす。村山由佳 著『ミルク・アンド・ハニー』

はじめに

村山由佳 著『ミルク・アンド・ハニー』を読んだ。
(内容的に、R-18くらいになりそうなので、苦手な方はUターンでお願いします…)

思い返せば、彼女の作品を初めて手に取ったのは、高校生のとき。
恋愛小説の名手と名高い彼女の作品を、おいしいコーヒーのいれ方(通称:おいコー)シリーズの第1巻『キスまでの距離』から読み始め、好きになった。

そこからまず、集英社文庫を読み漁った。ピュアな白村山も、ディープな黒村山もどちらも好みで、この2面性に惹かれたことは間違いない。
わたしの実家にある本棚には、黄色の背の村山作品が、今でも並んでいる。

前作『ダブル・ファンタジー』について

初読時の衝撃

今回読んだ『ミルク・アンド・ハニー』は、『ダブル・ファンタジー』の続編ということで、前作について、まずは書きたい。

20歳のとき、『ダブル・ファンタジー』を読んだ。言葉では言い表せないほどの衝撃を受けた。

柴田錬三郎賞・中央公論文芸賞・島清恋愛文学賞をトリプル受賞したこの作品。
いまは、WOWOWでのドラマ放送が控えている。
http://www.wowow.co.jp/dramaw/wf/

自分の中にいる奈津

『ダブル・ファンタジー』を読んだときに思ったことは、「わたしの中に奈津がいる」ということだった。

主人公・奈津は、35歳の売れっ子脚本家。夫は専業主夫、自分は執筆に専念できる環境にいる。
しかしあるときから、夫の束縛や自分の中の強い性欲を抑えきれず、家を飛び出してしまう。
そこから、深い性の世界に潜り込む…というあらすじ。

この作品では、多くの男性が登場し、奈津と関係を持つ。女性が性欲が強く、こういった奔放な生き方は、世間的に疎まれることがほとんど。
当時20歳のわたしが、35歳の奈津に心底共感したのは、わたし自身も同じ悩みを抱えているからだ。

自分自身の性欲の強さ。一時期は病気じゃないかというくらい、苦しんだことがある。
語弊を恐れずに言えば、『ダブル・ファンタジー』を読み、ある意味救われたし、安心した。

本作について

相変わらず、自分の性欲にも、男にも振り回されている奈津。
今回も共感する箇所が多く、前作を読んで5年経っても、「お互い成長しないね」って奈津に言いたいぐらいである。

同棲相手・大林という男

本作でも、前作の登場人物は確かに出てくるが、その中でも、前作で少し登場し、その後同棲している大林の威力がとても強い。

舞台俳優の彼は脚本を書きたいという気持ちがあり、最初は熱を持って奈津を口説いていた。しかし同棲してからは、ただのヒモ。
働かない、脚本は一向に書かない、夜は毎晩飲み歩く、家事は一切しない。挙げ句の果てには、セックスレス…

自由とは、得てして孤独と表裏一体のものだ。

せっかく夫から離れられ、きちんと大林と向き合えるよう、「自由」になっても、状況は変わらなかった。ひとつ屋根の下で暮らしていても、奈津の孤独は深まるばかり。

2人の間にある出来事が起こり、それまではいわゆる、「釣った魚に餌をやらない」状態だった大林だったが、そこから彼の温度が変わっていく。
奈津は耐えられなくなると、外へ出て、自分の中にある欲を満たすものを求めてしまう。
大林が変わってしまったときの、そのトリガーは、奈津自身が引いてしまったのだろう。

ここまで書いてみても、最後まで読んでみても、大林は、うまく掴めない男だった。

強欲の果ての地平へ

果てまで見届けたいのは、むしろ、今現在の恋ではなく、自分のこのどうしようもなさだった。物欲であれ、性欲であれ、いったん身のうちに芽生えた炎を決して消すことのできない、この強欲の果ての地平へたどり着いてみたいのだ。

ここまで挑戦的な発言をしていた奈津。
強欲の果ての地平。そこには何が見えるのだろうか。

奈津の決着。行きつく先。ぜひ見届けてほしい。

ABOUTこの記事をかいた人

1992年、愛媛県生まれ。愛知県在住。『わたしの本棚』ライター。 好きな本のジャンルはミステリー。読書歴は約10年。辻村深月、東野圭吾、森絵都、恩田陸、原田マハ、村山由佳作品をよく読みます。(敬称略) 辻村深月作品が特に好きで、情報収集や考察が日課。また、作品の舞台になった街へ赴く、聖地巡礼も楽しい。 今まで読んだ本で1番好きなのは、辻村深月 著『子どもたちは夜と遊ぶ』。何度も読み返してるのは、同じく辻村深月 著『スロウハイツの神様』。初めて読んだ高校時代から現在も、わたしに影響を与え続ける、大切な作品たち。 読書の他に、アルトサックス、お菓子作りも好き。