吉原随一の花魁×ミステリー。有馬美季子 著『吉原花魁事件帖 青楼の華』

有馬美季子著『吉原花魁事件帖 青楼の華 (PHP文芸文庫)』を読んだ。

本作について

吉原随一の花魁である、桃水楼の華舞(はなまい)。彼女の周りで起こる不可解な謎を解く、連作短編小説である。
わたしはそんなに歴史小説を読むのが得意ではないのだが、花魁モノは別物。
決して恵まれた境遇ではない彼女らが、必死で努力し花魁に上り詰めた、そんな物語が好き。また、あでやかに着飾る花魁たちを美しく思うし、男に一時の夢を見させる、そんな儚さも魅力。

その花魁小説に、ミステリーが掛け合わさった本作。読みやすい作品だった。

本作の魅力

鮮やかな謎解き

花魁道中の最中に矢で狙われたのは花魁か、それとも客なのか?また叶わぬ恋から自害を図ろうとした遊女の相手を探る…など、美しき花魁・華舞の周りには様々な謎が、次々に起こる。

遊女は、所詮、籠の中の鳥ですもの。

と彼女自身が言っている通り、やすやすと外には出られない。
「<桃水楼>のお職・華舞の上客が矢で狙われた」事件の際、馴染みになった岡っ引き(面番所の見張り)・徳茂の力も借りつつ、事件を解決していく。

特に、源氏香を用いた言葉の操り方は、もはや暗号のよう。香道をたしなむ華舞だからこそ、と思える謎解き。

華舞の信念

最高位の花魁とはいえど、その美貌や周りからの人気に自惚れることない。腰は低く、常に周りの者に気を遣う。
花魁道中をさらに美しく歩きたい、と練習することも欠かさない。
そんな華舞を見て、華舞が抱える振袖新造や禿(かむろ)は、憧れの目で見ている。

「人から嫌がらせをされても、自分は決してそれを人にしない」

人として当たり前のようだが、特に吉原の世界では、なかなかこれを徹底して実行することは難しかったのでは…と思う。
どんなことがあっても余裕の笑みを浮かべている華舞を、悲しいかな、妬む者も現れる。

欲望と羨望と嫉妬の世界

男は、最上の女を自分のものにしたいと金子 (きんす)をかけていく。

自分のお気に入りの女を誰よりも輝かせることが、客たちの無上の喜びだからだ。

その欲が更なる欲を生み、歯車が狂っていく恐ろしさを感じ取った。
また、羨望から嫉妬を生むこともある。それでも気丈に振る舞う華舞に、強さを感じた。

全体の構成の魅力

美しい言葉

本作を読みながら思うことは、美しい言葉が多いこと。
廓(くるわ)言葉(あちき、~ありんす など)はもちろんのこと、「嫋やか(たおやか)」「偶さか(たまさか)」「後朝(きぬぎぬ)の別れ」といった、現代ではほとんど聞かない言葉が何度か登場し、日本語の奥深さと美しさを改めて実感する。

なかなか見聞きしない言葉に、わたし自身わくわくした。
こういう言葉との出会いがあるから、いろんなジャンルの本をこれからも読んでいきたいと思う。

丁寧な説明

歴史小説となると時代感覚が着いていけないことがあるが、本作では冒頭の登場人物と吉原の地図があり、わかりやすい。
複雑な吉原のシステムや時代背景も丁寧に説明してくれるのも、好感が持てる。

現代に生きるからこそ思うこと

立場も境遇も、もちろん時代背景も、何もかも現代とは違う花魁小説を何冊か読み、そのたびに思うことがある。
それは「好きになった人と、自由に恋愛ができる現代は、とても幸せなのだ」ということ。
そして、しがらみだらけの世界で生きる遊女や花魁から、わたしたちが学べることもきっと多い。

眠ることなく、朝まで明かりが灯り続ける吉原の闇を見た華舞は、吉原の灯になりたいと願う。

「寂しい思いも、悲しい思いも、嬉しい思いも、それを乗り越えてすべて糧にして、いつの時にも、笑みを浮かべていられるようになったのです」

彼女の強さを見た、花魁小説。
性描写もほとんど無いので、それが苦手な方にも勧めたいですね。

 

ABOUTこの記事をかいた人

1992年、愛媛県生まれ。愛知県在住。『わたしの本棚』ライター。 好きな本のジャンルはミステリー。読書歴は約10年。辻村深月、東野圭吾、森絵都、恩田陸、原田マハ、村山由佳作品をよく読みます。(敬称略) 辻村深月作品が特に好きで、情報収集や考察が日課。また、作品の舞台になった街へ赴く、聖地巡礼も楽しい。 今まで読んだ本で1番好きなのは、辻村深月 著『子どもたちは夜と遊ぶ』。何度も読み返してるのは、同じく辻村深月 著『スロウハイツの神様』。初めて読んだ高校時代から現在も、わたしに影響を与え続ける、大切な作品たち。 読書の他に、アルトサックス、お菓子作りも好き。
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