【5月企画/名言特集】建物と辿る記憶。辻村深月 著『東京會舘とわたし』

5月企画の【名言特集】!
ゆうゆうに引き続き、私・すーちゃんがピックアップするのは、辻村深月さんの『東京會舘とわたし(上)旧館』。

大正11年、東京・丸の内に建てられた東京會舘。大正、昭和、平成と激動の時代を、共に歩んできた。
建物が歩んできた記憶、人々の思いを辿る作品。

「だって、どんな時だって世の中に男性と女性がいる限り、結婚はあるのよ。私たち、必要とされるわ」

戦時中、東京會舘は大政翼賛会の庁舎として、全面的に徴用された。その際には、フランス料理のシェフも、バーテンダーも、宴会場の婚礼で任されていた理髪館(美容室)の三代目も、東京會舘を去ることとなった。
この言葉は、理髪館の三代目が、東京會舘を立ち去るときに言った言葉。

今は戦争中でとても厳しいが、いずれまた必要とされる。自分たちが持つ技術に誇りを持ち、また必要とされると言える、その姿がとてもまぶしく思えた。

東京會舘にこれらの菓子をこれからもずっと、誰かにとっての、しあわせな味の記憶として残していけること。それを、とても誇りに思う。

東京會舘のお菓子として名物となった、パピヨンやプティガトーの生みの親の物語。
旦那の帰りを待つ、奥さんやお子さんに、本場のフランス料理のおいしさをおすそ分けできるお菓子を作るという、本当に大変なプロジェクトだった。

お菓子の味に、大きな可能性があることを知った。
「しあわせな味の記憶」という言葉がとても良い。

この場所にかかわった者、1人1人の思い出と輝ける場所が沁み込んだ、この場所はそういう場所だ。訪れた人の数だけ、自分の東京會舘がきっとある。

まさしくこの言葉の通り、旧館・新館の上下巻からなる本作には、東京會舘に関わった方が何人も登場する。
それぞれ、東京會舘に対する思いも、そこで得たものもさまざま。
夢が生まれ、そして夢を叶えていく場所が、東京會舘なのかもしれない、とさえ思う。

今につながる東京會舘

恥ずかしながら、本作を読むまで、東京會舘の存在すら知らなかった。そして今は、この建物にとても親近感を感じている。

東京會舘という建物を通して、自分の仕事を全うした人が多くいることを知った。それらが、現代の東京會舘につながっていると思うと、胸がいっぱいになった。

この作品の1番の魅力は、「今につながっている」ということだと思っている。
本作を読んだ方にはぜひ、このページを見てもらいたい。世界観がつながる感動を味わってほしい。
https://www.kaikan.co.jp/watashi/

2018年5月の現在、東京會舘の本舘は改装中。2019年1月に、新しい姿を見せてくれるという。
そのときにはまず、「おかえりなさい」と声をかけるつもりである。

 

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ABOUTこの記事をかいた人

1992年、愛媛県生まれ。愛知県在住。『わたしの本棚』ライター。 好きな本のジャンルはミステリー。読書歴は約10年。辻村深月、東野圭吾、森絵都、恩田陸、原田マハ、村山由佳作品をよく読みます。(敬称略) 辻村深月作品が特に好きで、情報収集や考察が日課。また、作品の舞台になった街へ赴く、聖地巡礼も楽しい。 今まで読んだ本で1番好きなのは、辻村深月 著『子どもたちは夜と遊ぶ』。何度も読み返してるのは、同じく辻村深月 著『スロウハイツの神様』。初めて読んだ高校時代から現在も、わたしに影響を与え続ける、大切な作品たち。 読書の他に、アルトサックス、お菓子作りも好き。