栄光の裏に、たゆまぬ努力。野口美惠 著『羽生結弦 王者のメソッド』

野口美惠 著『羽生結弦 王者のメソッド (Sports graphic Number books)』を読んだ。

本作について

男子フィギュアスケート日本代表、羽生結弦選手
2014年のソチオリンピック・2018年の平昌オリンピックで、2大会連続優勝。23歳の世界王者

特に平昌オリンピックでの演技は、皆さんの記憶に新しいことと思う。
わたしもYouTubeであの演技を見た瞬間、「完璧だ」と感じた。

そのオリンピックのあとに本作を読み、あの演技に至るまでの彼の苦悩と、それを乗り越えた強さの源を探ることができた。
特設サイト http://books.bunshun.jp/sp/yuzurumethod

王者のメソッド

大きな目標を口に出して宣言する

14歳で出場した日本選手権で8位に入賞した際、メディアに向かって発した言葉。

「日本には荒川静香さんの五輪金メダルがあるので、僕が日本で2人目の五輪金メダリストになりたいです」

当時のメディア取材は、織田信成選手や小塚崇彦選手らに集中していた。この言葉を取り上げたメディアはなかったそう。
しかし5年後、その言葉の通り、ソチ五輪で男子シングル初の金メダルを手にした。

その言葉以外にも、メディア取材で宣言することで、後に退けない状態にすることがあった。

「『勝ちたい』と言うことで、プレッシャーを自ら作る。そこで負けたら格好悪いから、だからもっと頑張れる」

自分が発した言葉で自分を追い込み、そこからがむしゃらにゴールを目指す。
窮地に立ったときほど頑張れる人には、このやり方も応用できると思う。

悔しさをバネにする

「負けることは、悔しいということ。悔しいのが嫌なら、練習が大事だということ。悔しさが練習につながっていくものなんだ」

このように、彼はめいっぱい考えるタイプ。
1つの事象に対し、自分の感情がどう動くのか。だから次はこうしなければならない。また別の場面はこうだった、という、データを蓄積している。本作では、それを垣間見えるのも興味深い。

「強くなれる要素がまだまだあって、これをやれば明らかに強くなれる、点数を獲れるというスケートの形が目の前にあることがわかりました。とにかく僕はもっと強くなれるんだと思いました」

これは、シニアデビュー後のロシア杯のときの彼の言葉。悔しさと、圧倒された他の選手の演技の中に、自分が強くなれる要素を見つける前向きさ。
悔しさをバネに進んでいけるその姿勢は、とてもまぶしい。

被災者代表というイメージからの脱却

羽生選手は仙台出身。東日本大震災発生時も、仙台で練習していた。
なんとか練習をできるところに身を移し、励んでいた。

そんな中、「仙台で被災し、苦労しているスケーター」としてメディアに取り上げられる。
優等生的なコメントをしつつ、それが上滑りしていることに気づく。

被災地の惨状を目の当たりにしたからこそ、自分が具体的な力になれるわけではないことを実感する。「被災地のために」という言葉のむなしさから、むしろ純粋なスケーターとしての気持ちに立ち返った。

16歳で、「被災代表」と「日本代表」の狭間に立たされるのは荷が重すぎるが、それでも自分の中で結論を出す。
乗り越えられる壁が大きいほど頑張れる羽生選手、ただただ尊敬する。

時には負けること

17歳のとき、海を渡り、カナダ・トロントへ向かった。「強くなりたい」という気持ちで、ブライアン・オーサーコーチのもと、新たなスケート人生が始まった。

ショートとフリーの演技、両方がうまくいくのはとても難しいそう。
その年のグランプリシリーズ初戦・スケートアメリカでの羽生選手も、ショートが良くてフリーでミスするというパターンがあった。

「もちろん、ずっと勝ちたいけど、でも負けることも必要。この1年、負ける時はしっかり負けて、そこから得られるものすべてを得たい

この言葉が、わたしはとても印象に残った。負けることも必要なんて口にする選手は、見たことがなかったから。
しかしこの言葉は、2年後のソチ五輪で勝つためにある。ひとつひとつの勝ちではなく、長期的なスパンで、計画的に事を進める。どんどん成長している羽生選手を、本作から感じ取れる。

常に課題を持ち続ける

10代最後の試合で、「20歳の約束は?」と聞かれた答えが「常に課題を持ち続ける」。

自分が打ち立てた世界記録に立ち向かうことも、ケガで苦しんだこともあった。
それ以外にも多くの苦悩や挫折もあり、それと向き合いながら、課題を見つけ、乗り越えていく。
その姿に勇気づけられた人は、きっと多くいる。

そして、王者はこう言う。

「たくさん乗り越える壁を作っていただいて、こんなに楽しいことない。自分が弱いということは、強くなれる可能性があるということ

この先、壁にぶつかったとき、この言葉を思い出そう。

そしてぜひ、本作を読んだ方には、またあのオリンピックでの演技を見てほしい。
感動で胸がいっぱいになるはずだから。