『かがみの孤城』で2018年の本屋大賞を受賞した辻村深月さんの、『青空と逃げる (単行本)
』を読んだ。
この作品を読むにあたって
大好きな辻村作品。
高校2年生のときにその名を知り、著作を一気に読んでハマり、そこから今日に至るまで、追いかけ続けている作家さん。
本作は、読売新聞に連載されていたということで、今回の書籍化はとても楽しみにしていた。
余談だが、本作の冒頭の舞台が高知県の四万十から始まると聞いたときは、大学時代に高知市から関東のサイン会に参加した甲斐あった!と思った。きっと刷り込み。
特設サイト http://www.chuko.co.jp/special/aonige/
親子の逃避行
深夜の電話。舞台俳優の父が交通事故を起こした、という一報。
同乗していたのは主演女優。そのあとに父が失踪。
母と息子は、見えない悪意やマスコミに追われることになり、周囲から好奇の目に晒されてしまう。
生きづらさが伝わってくる。
それに疲弊した2人は、夏休みに東京から逃げることを決意する。
四万十へ
母・早苗の旧友が住む四万十市へ、まずは2人で逃げる。旧友が働く食堂で早苗も働く。
そこでも追手はやってくる。「高知には、旦那さんとは一緒に来ていないんですか?」
東京で暮らしていたときにはできなかった自然と触れ合い、川で遊んでいた息子。
それなのに大人の事情で、理不尽に振り回してしまう。
母の悔しさが、文中からひしひしと伝わってくる。
家島
坂道と路地の街・家島。瀬戸内海に浮かぶ島で、次の暮らしを始める親子。
力は、その島で中学生の優芽と仲良くなる。
力が「離婚しないで」って親に言ってしまったと話したあとの、優芽の言葉が重くのしかかった。
「力がそう言ったからって、大人は自分が離婚したい時はするし、子どもの言うことなんか聞かないよ。力がどう言おうと、離婚したい時にはするよ」
別府での出会い
家島から、さらに逃げた先の別府で、早苗は砂かけさんとして働き始める。
温泉の砂かけをしながら、自分のこれまでを反芻する。
これまでいろんなことがあって、全部自分で決めてきてしまった。力に学校に行かなくてもいい、という選択をさせること、別府に来ること。
そこには、きちんと早苗に叱ってくれる職場の上司がいてくれた。
背負うものがあるということは、強い。
(中略)力がいるから、投げ出さずにいられる。自分にも、できることがきっとある。
早苗と力が逃げた先では、そこで出会う人々や自然、すべてのものが2人を包んでくれる。
別府のあとに行く仙台も含め、逃避先となった各地の描写が美しく、追われることでこわばっていた親子の心も、少しずつほぐれていく。
事件終盤
終盤、事件の真相がわかってからは、涙が止まらなかった。
ラストスパートの追いかけ方は、相変わらずのスピード感。
母と子が、お互いを想うがゆえに言えない、内に秘めてしまうような気持ちも丁寧に描かれていて、グッと来た。
「自分たちはいくらだって選べるのだと思う」
早苗のこの一言に、わたしはとても励まされた。
見えた青空
本作は簡単に、逃避行の物語とは言えない。
タイトルには「逃げる」とあるけれど、後ろ向きな意味ではないと思う。
生きるために逃げていたのだと、今になって感じる。
ある家族の再生を、読者として見届けることができてよかった。
「どうかこれからの道のりでも、青空が見られますように」
わたしも、それを切に願う。