三重苦の少女との闘い。日本版ヘレン・ケラー。 原田マハ 著『奇跡の人』

以前、図書館で借りて読んだ本が、今年1月に文庫化されたと聞き、早速購入。
原田マハ 著『奇跡の人 The Miracle Worker (双葉文庫)』を再読した。

日本版ヘレン・ケラーと、その舞台・津軽

三重苦の少女と女教師

時は明治。弱視の去場 安(さりば・あん)は、9歳で岩倉使節団と共に留学生として渡米した。
22歳で帰国するまで、アメリカで最先端の女子教育を学んだ安。
帰国後、持ち掛けられた縁談も断り、自国での女子教育の普及と発展に寄与したいという強い思いが、安の中にはあった。

そんな折、伊藤博文伯爵から直々に、弘前の名家である介良(けら)家の長女・れんの教育係を依頼される。
そのれんこそ、盲目、耳が聞こえず、口も利けないという三重苦を背負っていた。
本作は、れんと安の、奮闘の物語。

小学生の頃に伝記で読んだ、ヘレン・ケラーの一生を下書きとし、原田マハさんの手でオマージュのように描かれた本作。
あのときとは別の形で読むことができるなんて、不思議な気分。

れんと安の闘い

れんは、安に出会うまで、屋敷では「けものの子」扱いをされていた。
思い通りにならないなら、泣きわめき、暴れ、止めに入った女中の手を噛むこともしょっちゅう。
そんなれんは、大きな屋敷のはずれにある、暗い蔵に閉じ込められ、隔離されていた。

初めてれんと会った日、安はれんに光を見た。

少女が立っていた。西日を背にして、完璧な光の中に。(中略)かすかにめまいを覚えるほど、まぶしい少女だった。強烈な光を放つ人だった。

ここから、安はれんに、人間らしい生活を覚えさせていく。

津軽の文化・慣習

作中、明治時代の津軽には、ボサコ・イタチといった盲目の女性が登場する。
特にボサマについて、作中では多く描かれていて、「盲目に一芸ある文化」「それを人々が受け入れる文化」こそが、この作品に大きな影響を与えていると思う。

「ボサマといい、この地域には盲目の女性ならではの生きる術がある」

アメリカで、人間は「弱みを強みにすることができる」ことを学んだ安だからこそ、弱み(盲目)を強みに変えた生き方に、感銘を受けたのだろう。

人としての可能性

才能が開花する瞬間

安との授業が進むにつれ、目を見張るスピードで、言葉や物事を習得していくれん。
れんにできることが増えるたび、物事を理解して成長するたびに、読者であるわたしは涙を流していた。

この『奇跡の人』を、泣ける、なんて簡単な言葉で紹介したくない。
そう思いながらここまで書いているが、涙なしでは読めない作品。

自由(フリーダム)を手にするために

「自由って、人間にとって、この世でいちばん大切なものなのよ。」

アメリカでそう教わった安は、人としての尊厳を取り戻し、自由を手にするために、文字通り献身的にれんを支える。

何かを学び、習得すること。人としての自由を手にすること。
それらは自分が考えている以上に、尊いことなのだと、再認識した。

言葉で気持ちを伝えられることこそ奇跡

日頃使う言葉。
「ありがとう」「大好きよ」と伝えられること、その当たり前こそが奇跡なのだと、心底感じた。

「れんは、不可能を可能にする人。…奇跡の人なのです。」

2人3脚で歩み続けた、安とれん。
そして最後の再会シーン。

ただただ、読んでよかったと思った。
そして、久しぶりにヘレン・ケラーの伝記も読みたくなった。

「このさき、何があろうとも、私は生きる。そして、必ず花開く。そのために生まれてきたのだから。」

これからも、立ち止まらずに前向きに、生きていく力をもらった。

 

 

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ABOUTこの記事をかいた人

1992年、愛媛県生まれ。愛知県在住。『わたしの本棚』ライター。 好きな本のジャンルはミステリー。読書歴は約10年。辻村深月、東野圭吾、森絵都、恩田陸、原田マハ、村山由佳作品をよく読みます。(敬称略) 辻村深月作品が特に好きで、情報収集や考察が日課。また、作品の舞台になった街へ赴く、聖地巡礼も楽しい。 今まで読んだ本で1番好きなのは、辻村深月 著『子どもたちは夜と遊ぶ』。何度も読み返してるのは、同じく辻村深月 著『スロウハイツの神様』。初めて読んだ高校時代から現在も、わたしに影響を与え続ける、大切な作品たち。 読書の他に、アルトサックス、お菓子作りも好き。