京の町をずんずん歩く乙女の物語―森見登美彦 著 『夜は短し歩けよ乙女』

夜の帳が落ちて、居酒屋から漏れる明かりが暖簾をぼんやり照らしている。

周りをみれば、四方八方赤ら顔の人たちが、何がそんなに面白いのか楽しそうに笑っていたり、もしくはしくしく泣いていたり……

みなさんこんにちは、みき(@_miki972)です!

みなさんはお酒を飲むことは好きですか?

私には自分がまだ未成年の頃から「成人したらこんな風に楽しくお酒を飲もう!」と思うにいたった本があります。

今回は、可愛らしい黒髪の乙女が京都を舞台にあっちへふらふら、こっちへふらふら、ずんずん歩いていく、映画化もされた名作『夜は短し歩けよ乙女』についてご紹介しようと思います。

あらすじ

 

黒髪の乙女」にひそかに思いを寄せる「先輩」は、夜の先斗町に、下鴨神社の古本市に、大学の学園祭に、思い人の彼女を追いかけ奔走します。

けれど自由気ままな乙女はそんな先輩の思いにまったく気づかず、「奇遇ですねえ!」と言うばかり。

乙女を追って京の町を走り回る先輩のもとに、個性豊かな曲者たちが次々と現れます。

酒豪の乙女

 

「私は太平洋の海水がラムであればよいのにと思うほどラム酒を愛しております」

「もちろんラム酒を一瓶、朝の牛乳を飲むように腰に手をあてて飲み干しても良いのですが、そういうささやかな夢は心の宝石箱へしまっておくのが慎みというもの―」

物語に登場する黒髪の乙女はものすごい酒豪で、お酒を飲みながら京の町を練り歩きます。

乙女の表現するお酒がなんとおいしそうなことでしょう!

前述の一文ももちろんですが、私は乙女がカクテルを飲む際の

「カクテルを嗜んでゆくのは、綺麗な宝石を一つずつ選んでゆくようで、たいへん豪奢な気持ちになるのです」という台詞も大好きです。

乙女は大学生の普通の女の子。

先斗町界隈に足を踏み入れる際、まだ見ぬ大人の世界に胸をはせ、こんな風に意気込みます。

「いざゆかん!めくるめく大人世界!」

美しい京の町

 

この小説に出てくる地名は実際に京都に存在します。

乙女がはじめに飲み歩く先斗町(ぽんとちょう)も京都有数の飲み屋街として知られています。

私はこの小説が好きすぎるあまり、自分の二十歳の誕生日の二日後にはるばる京都まで行って先斗町にも足を踏み入れてみました。

先斗町は鴨川に面していることもあり、高級な店屋が多く立ち並びますが、中にはちょっと風変わりなお店も多くあり、物語に入り込んでしまったようでたいへんわくわくいたしました。

実際の地名を思い浮かべながら読むことができるのも、この小説の魅力の一つであると思います。

せっかくなので、私が訪れた物語に登場する場所をいくつかご紹介させていただきます。

▲先斗町入り口と提灯。

▲乙女が腰かけた鴨川

▲糺の森と下鴨神社周辺

乙女の世界観

 

下鴨神社の森に足を踏み入れて、蝉時雨を浴びながら、どこまでも続く古本の洪水を見た時の感動を、私は忘れることができないでしょう。

この古本の大海で、いくらでも素晴らしい本と出合うことができるのだと考えると、武者震いがして、むんと胸を張りたくなりました。

上記は乙女が下鴨神社の古本市に足を踏み入れた時の台詞です。

新しい本のどこか無機質な香りも良いですが、古本のつんとした黴臭さや、くたびれた背表紙をそっと撫でるのもまた良いものがありますよね。

乙女は「オモチロイこと」が大好きで、とても無垢で体当たりに様々な世界へ飛び込んでいきます。

美しく調和のある人生

 

この小説を読んで私は「美しく調和のある人生」という言葉についてよく考えるようになりました。

乙女のように自由気ままで美しく生きて行けたら本当に素敵だと思います。

乙女は小説の冒頭でこう述べています。

美しく調和のある人生とは、慎ましさをぬかしては成り立たないものであろうと思われます。

慎ましく、それでいて軽やかに。

みなさんもぜひこの一冊を読んで、美しく素敵な夜を過ごしてみてはいかがでしょうか。

ABOUTこの記事をかいた人

本好きの21歳です。 神奈川県に住んでいますが、東京で働いています。 よく読むジャンル:純文学 好きな作品:みずうみ(よしもとばなな)、落下する夕方(江國香織)、銀河鉄道の夜(宮沢賢治)、赤毛のアン(モンゴメリ) 色んな作品に触れ、感じたことを発信できればと思っています。