大切なのは、自分で決めるということ。梨木 香歩 著『西の魔女が死んだ』

「まいは、魔女って知っていますか」
「魔女?黒い服を着て、箒に乗ったりする魔法使いのこと?」

こんにちは、みき(@_miki0972)です!

中学生の時、読書感想文を書くために読んだ小説を、大人になってもう一度読んだこと、ありますか?

今回は、図書館でおすすめの本によく並べられていて、きっと多くの人が目にしたことがあるであろう、不屈の名作「西の魔女が死んだ」についてご紹介をしようと思います。

どうしても学校へ足が向かなくなる少女、まい

 

まず、「西の魔女が死んだ」は主人公のまいが小学校を卒業し、中学校に入ったばかりのところから物語が進んでいきます。

まいは冒頭で「わたしはもう学校へは行かない。あそこは私に苦痛を与える場所でしかないの」と母親に語っています。堂々とした物言いをする反面、母が自分に対してがっかりしているのではないか、母は大学まで卒業したのに、自分はここで座礁している……等罪悪感のようなものも抱えています。

学校を休む、ということに罪悪感を感じる。

大人になってみればなんとでもないようなことでも、毎日狭いコミュニティでドキドキしながら生活していると、ほかの子の枠からはみ出ると物凄く悪いことをしてしまったんじゃないかと思う、なんてこと、きっと誰しもが経験があるのではないでしょうか。

まいも同じように悶々としながら、西の魔女、つまりまいのおばあちゃんの家でしばらく暮らすことになります。

魔女のもとでの美しい暮らし

 

まいは学校を長期で休むことに決め、美しい木々や花が咲く祖母の家でしばらく暮らします。

野イチゴを摘んでジャムを作ったり、本を読んだり、紅茶を飲んだり、祖母と話をしたり。

そんな生活の中で、こんなやり取りが生まれます。

「いいですか、まい。この世には悪魔がうようよしています。精神力の弱い人間を、いつも乗っ取ろうとしているのですよ」
「おばあちゃん、悪魔って本当にいるの?」
「います、でも精神さえ鍛えれば大丈夫」
「どうやって鍛えるの?」
「そうね、まず早寝早起き。食事をしっかりとり、よく運動し、規則正しい生活をすること」

これに対しまいは、そんなことは到底難しい、と気落ちをします。

この時のまいの祖母のいう「悪魔」とは、いわゆるオカルト的な意味合いだけじゃないような気がします。

人は生活が荒れると気持ちも荒れます。そういうことから上手に自分を守っていくためには、やはり規則正しい生活が何よりの薬になります。

そういうことを、中学生のうちから教えてくれる大人がいるということ。主人公のまいは、祖母から学校では学べない、生きていくために必要なことを学んでゆきます。魔女の祖母から、魔女修行を受けるのです。

まいの抱える憂鬱と、魔法の言葉

 

まいは理由もなく学校へ行きたくなくなったわけではありません。
新しいクラス。ほかのクラスメートはいわゆる“グループ”を作って群れ、その中に入らないと孤立してしまう。

まいは、この駆け引きのようなものが面倒で避け続けていた結果、変にクラスで浮いてしまい、心ない扱いを受けるようになってしまいます。

「私、やっぱり弱かったと思う。一匹オオカミで突っ張る強さを養うか、群れで生きる楽さを選ぶか……」

これに対するまいの祖母の言葉が、私はこの小説の中で一番好きで、自分自身も何度か救われてきました。

「その時々で決めたらどうですか。自分が楽に生きられる場所を求めたからといって、後ろめたく思う必要はありませんよ。サボテンは水の中に生える必要はないし、蓮の花は空中では咲かない。シロクマがハワイより北極圏で生きる方を選んだからといって、だれがシロクマを責めますか」

当たり前のことのように思えますが、忘れてしまいがちな大切なことですよね。

まいもこの言葉にはっとし、本当に必要なことはなにか、自分自身の力で考え、決めるという力を養っていきます。

大人と子供

 

「西の魔女が死んだ」、は、あの頃中学生だった私の心を救ってくれた大切な小説です。

大人になった今、改めて読み返してみると、当時は主人公まいの立場でうんうん共感しながら読んでいたのに、今はまいの母親や、祖母の立場に立って、どこか懐かしい気持ちでまいを見守るような感覚で読みました。

読書感想文の題材として選ばれやすい「西の魔女が死んだ」。
まだ読んだことがない子供も大人も、あの頃泣きそうになりながら読んだ方も、ぜひ手に取っていただきたいおすすめの一冊です。

ABOUTこの記事をかいた人

本好きの21歳です。 神奈川県に住んでいますが、東京で働いています。 よく読むジャンル:純文学 好きな作品:みずうみ(よしもとばなな)、落下する夕方(江國香織)、銀河鉄道の夜(宮沢賢治)、赤毛のアン(モンゴメリ) 色んな作品に触れ、感じたことを発信できればと思っています。