敵をバッタバッタと一刀両断! 前野ウルド浩太郎「バッタを倒しにアフリカへ」

はじめに

いきなりだが、皆さんはバッタを口にしたことがあるだろうか。私はある。
…待って。ブラウザバックしないでほしい。私は何もそこらへんを飛んでいるバッタをおもむろに口に入れたわけではないのだ。これには深い訳があるので是非聞いて頂きたい。

 


 

小学3年生、給食にて。

その日の詳しいメニューは覚えていないが、とにかく事件の発端が野菜うどんであったことだけはハッキリしている。

見たことのない具材が、私の器にだけ入っており、噛んでみるとやけにすじすじしていたのだ。困惑。しかし、おとなのひとに給食を残すと怒られてしまう。頑張って食べようとする私を見ていた隣席の男子。彼が放った一言は、世にも恐ろしかった。

「それ、なんか虫っぽくね…?」

(※あまりにも過激な為、イメージ図でお送りしています)

そこからはまさにハチの巣をつついたような騒ぎ。校内放送まで入った。どうやらバッタは野菜にくっついて、哀れにも調理されてしまったらしい。センシティブな小学生のまつのはいつもより食後の歯磨きに力を入れたのだった。

そんなトラウマも相まって、見ていると、あのすじすじした食感を思い出してぞわっとしてしまう。しかし、好き嫌いはいけない。食べ物であろうが虫であろうが、より多くの物を楽しめた方がいいではないか。もっと、苦手なバッタのことを知り、克服したい。そんな訳で手にとって本がこちら。

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メディアで話題になったことから、ご存じの方も多いのではないだろうか。
前置きが長くなりました、すみません。今回本書を紹介させて頂きます、まつのです。よろしくお願いします。

本書について

東北・秋田出身の著者、前野ウルド浩太郎氏は昆虫学者・ファーブルに憧れて博士になることを決意。愛ゆえに「バッタに食べられたい」という夢を携え、日本から遠く離れた、西アフリカ・モーリタニアへ単身で乗り込み、農作物に甚大な被害を及ぼす「蝗害」 に挑む。

蝗害とは…世界各地の穀倉地帯に生息する固有種のバッタ(ここではサバクトビバッタ)が大量発生し、緑を食い荒らして甚大な被害を及ぼすこと。その恐ろしさは聖書やコーランにも記されており、アフリカの貧困に拍車をかける一因となっている。

彼の進んだ進路は、まさに「修羅の道」だ。
著者には決められた2年という任期のうちに新発見を挙げ、高いレベルの論文を書かねばならないミッションがある。

研究現場ではバッタ防除に直結するような論文は発表されておらず、どんな発見ができるのかは未知数だ。何も見つからない可能性もある。何より、彼は秋田弁ネイティブだが、公用語のアラビア語もフランス語も全く喋れない。

「研究」という二文字からさぞかしお堅い本だろうと思われる方も多いのではないだろうか。
しかし、まえがきにはこう書かれている。

100万人の 群衆の中から、この本の著者を簡単に見つけ出す方法がある。
まずは、空が真っ黒になるほどのバッタの大群を、人々に向けて飛ばしていただきたい。
人々はさぞかし血相を変えて逃げ出すことだろう。その狂乱の中、逃げ惑う人々の反対方向へと一人駆けていく、やけに興奮している全身緑色の男が私である

私は思わず、声をあげて笑ってしまった。なんだ、この本…面白い!!
冒頭だけでない。これが読み進めれば読み進めるほどに面白いのだ。

本書は、筆者が経験した蝗害研究の日々がユーモアを交えた文章で綴られており、あらゆる様々な文化を包括した毎日には、興味が尽きない。
例えば、モーリタニアではヤギが最高のごちそうであること、かつてフランス領であったことから、パンが抜群においしいこと。それら食べ物の美味しそうなことったら!
日本に居ては決して知ることのできない、等身大のモーリタニアがここにある。

モーリタニアで喜ばれる贈答品No.1。それはヤギ。

 

筆者も本書の中で言及している通り、伝説のロールプレイングゲーム「ドラクエⅢ」を地で行くような雰囲気だ。筆者が多数の人と交わり、コミュニケーションを覚え、新たな技や武器を携えて大ボスであるバッタに挑もうとするたび、レベルアップのファンファーレが鳴り響く。

なんといっても特筆したいのが、筆者の「バッタに対する尋常でない愛」だ。

ミドリ一色の愛

どの色のバッタも感動的に美しく、あやうく失神しそうになる。
「いいねぇ、たまらないね。その横顔いただき!」

彼女を浜辺で追いかけるように、群生相を執拗に追いかけ回し、逃げ惑うバッタたちと戯れる。
なんと贅沢なひとときだろうか。

あらゆる擬人法を使って語られるバッタへの慈しみ。本書にはバッタの写真が多く、最初こそは私も「ウッ…」となっていた。

しかし、彼のバッタ愛につられ、再読した時はまじまじとバッタの造形美を拝むことができた。彼にとってバッタとは、単なる敵ではなく、「興味のつきない好敵手」なのだ。(それほどの熱情の持ち主でありながら、「バッタアレルギー」であることがこれまた面白い)

ぜひとも虫嫌いの人ほど本書を読んでほしい。彼の熱意に惹かれて、気づけば夢中で読んでいるはずだ

ウルドの受難

肝心のバッタのいない季節、成果を上げずに無収入の日々。時にはサソリに刺され、研究もことごとく失敗。ただでさえ厳しいミッションには数々の受難が訪れる。

そんな時、筆者に「ウルド」のミドルネームを授けた研究所のババ所長はこう話す。

つらいときこそ自分よりも恵まれていない人を見て、自分がいかに恵まれているかに感謝するんだ。嫉妬は人を狂わす。

ババ所長の言葉はいつも優しく、温かく、どん底の筆者の心を救う。
そして、彼は「ウルド」のミドルネームを支えに何度も立ち上がるのだ。
その姿はまさにサムライ。刀代わりの虫網を手に、バッタと大人の事情を一刀両断。
次第に好転してゆく周囲の環境が、読んでいて我が身のことのように嬉しい。

さいごに

悲しい時、つらい時、そして、強大な敵が目の前に現れたとき。一体何が大事だろう。
知力は一番大事と言えるかもしれない。「ペンは剣より強し」という言葉もあるからだ。また、敵と戦う際に長期戦になってきた時には体力も必要だ。事実、著者もフィールドワークに負けない身体を作るためにジョギングなどをしていた。


しかし、それと同時に「ユーモア」が重要になるのではないだろうか。
苦しい状況でも楽しいことを見つける。好きなものを愛し続ける。不幸を幸せに転換する。

それだけで、人は明日も生きられるのだ。
とても大切なことを、私はモーリタニアで一人戦う彼に教わった。

私達も、いつかきっと、苦しかった日々が遠い過去になる時が来るはずだ。
それまでは笑って、笑って、生き抜いてやろうじゃないか。

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ABOUTこの記事をかいた人

まつの

どこにでもいるふつうのだいがくせい。日常とコーヒーをガソリンに文字を吐き出す日々。美術館・博物館を巡り、ひとりでふらふらいろいろなところに出かけるのが趣味です。 小説、マンガ、エッセイ、絵本、図鑑等、何でも大好き。夜行性で雨の日を好みます。