人生で最初の別れ話!
それは彼がずっと前から夢みてきた事柄で、それがやっと現実のものになったのだ。
今回紹介するのは三島由紀夫の「雨のなかの噴水」
男女の別れの日の一コマをかいた作品です。
三島由紀夫というと硬派な愛国者というイメージをお持ちの方もいるのではないでしょうか。
このお話はたったの20ページ弱の短編で分テンポが良い軽快な文章です。
とても読みやすいので、三島由紀夫ってなんだか難しそうと思っているかたにもおすすめです。
あらすじ
このお話にででくる少年(明男)は「自分を愛している女をふる」という行為にあこがれています。
明男は少女(雅子)を愛し、あるいは愛したふりをし、そのためにだけ懸命に口説き、そのためにだけしゃにむに一緒に寝る機会をつかまえ、そのためにだけ一緒に寝る。
そしてついに、満を持して喫茶店に呼び出し、明男は夢を叶えます。
さて、準備万端整った今では、ずっと前から、一度どうしても自分の口から、十分の資格を以て、王様のお触れのように発音することを望んでいたところの、
「別れよう」という言葉を言うことができたのだ。
それに対して雅子はただただ涙を目からこぼし、無言で泣き続けます。
それをただ見つめていた明男は「雨の日でも噴水は出ているのだろうか」と何故かそんなことを考えます。
そして雨の中の噴水と雅子の涙とを対抗させてやろうと思い噴水公園へと向かうのですが……。
なんというナルシズム
別れを告げたいがために交際するという、なんとも身勝手な話です。
時代のせいだと思いますが、三島由紀夫の綴るお話にはナルシストで弱い男性が、当たり前のように女性を蔑視したり神聖視するところがあるので腹が立ちます。
興味本位から彼女が欲しいというティーンエイジャー男子はこの世の中にはいると思います。
しかし「女の子を振るために付き合う」なんて人は数少ないのでは…?
子どもっぽくて単純なのにややこしい。きっとこじらせ男子です。
美しい水の描写
雨、涙、噴水から、室内に置いた傘が創る水たまり、髪から滴る雫まで。
「水」を巧みにつかっています。
明男と雅子が見にいった噴水の描写も美しいです。
一瞬毎に欠けたものを補う噴水を見た明男は「こんなにたえまのない挫折を支えている力の持続は、すばらしい。」と感じます。
そして彼の視線はさらに高みへと上げられて、とある理由で噴水への気持ちも萎えてしまいます。
コロコロと変わる彼の思考や興味対象に「おいおい…」と感じる部分もありましたが、
そのおかげもあって物語がテンポよく進むため読みやすいです。
この作品は「真夏の死」や「夢」という書籍で読むことができますので、興味のある方は是非…!