はじめに
とあるミステリー作家が中田栄一という別名義で執筆した短編集「百瀬、こっちを向いて。」
ユニーク、だけども現実にいそうな不器用なひとたちの恋愛を描いた4つの短編が収録されています。
表題作の「百瀬、こっちを向いて。」は、見た目も外見も冴えない男子高校生が、とある理由で美少女と付き合うことに!? という偽りの恋愛関係を結ぶお話です。
2014年に映画化されており知っている方も多いと思うので、今回は本書に収録されている4つ目の短編「小梅が通る」を紹介します。
あらすじ
わたしは地味で目立たない女子グループの一員だった。
主人公の春日井柚木は“できるだけほかの人の邪魔にならないように静かに過ごすグループ”に属する女子高生。
柚木はださいメガネをかけていて、しもぶくれでほくろがたくさんあります。
この集団の構成員は柚木と仲の良い地味グループは柚木と松代さんと土田さんの3人で構成されています。
松代さんは身長が高くて幸の薄い顔をしていて、土田さんはふくよかな体系です。
3人とも「モテる」とか「華やか」とは遠いところで地味に過ごしています。
しかし、柚木には2人にも話していない秘密があります。
本当はとても美しい顔をしているのです。
どのくらい美少女かというと出会うすべての男子が一目惚れし、すべての女子から嫌われるほどです。
普通なら羨ましがられることですが、この顔のせいで傷つけられることも多く、大きなトラウマを抱えています。
自分を守るすべとして頬に脱脂綿をいれてしもぶくれをつくり、ほくろをかいてどこにでもいる平凡な顔をつくり生活しているのです。
そんなある日、偶然メイクを落とした顔(美少女モード)をクラスメイトの山本に見られてしまいいました。
困った柚木はとっさに春日井柚木の妹だと嘘をつきます、山本はその嘘を信じて「妹さんのお名前」をきいてきます。
とっさにモデル時代の芸名「小梅」を使い、その場はごまかせたが……。
魅力的な脇役
柚木は地味な存在であると認識しそれ以上目立たないように、傷つかないように生きていくことを望んでいます。
柚木とは反対に友人の松代さんと土屋さんは人の目を気にせずに過ごしています。
自分の本当に好きなものを知っている彼女らだからこそ、柚木の中身をみて友人でいてくれたのだと思いました。
柚木が彼女たちを傷つけたくないと思いやっている分、2人も同じ思いを抱いていることが明かされるシーンは心にくるものがありました。

小梅が通るを含むめ、この本の4つのお話とも不器用で真面目なひとたちばかりが登場します。
恋愛小説。とはいえ、ミステリー風のしかけが施されておりどの話にも謎が含まれているので甘すぎることがなく、恋愛モノが苦手な人でも引き込まれるお話です。