みなさん、はじめまして!
わたほん初参加のまき貝。と申します。
よろしくお願いいたします。
少しずつ秋も深まり、「寒い」とつぶやくことも増えてきました。
そんな肌寒さとともに、フツフツと体に蘇ってくるのが食欲。
私は小説に出てくる料理を「小説メシ」と名付け、再現してみるのが大好きです。
何の変哲もない普通の料理も、小説に出てくるととても魅惑的に感じませんか?
文章のみで表現される料理を想像しながら、調理し、頂く。
それは脳と体に心地良い刺激を与えてくれると同時に、
物語の登場人物の心にそっと寄り添えるような感覚すら覚えます。
つい最近、小腹が空いたのをきっかけに、ある小説を本棚から引っ張り出しました。
秋の夜長に我が家のキッチンを騒がせたこちらの小説を、
わたほんデビューの一冊とさせていただきたいと思います。

ドラマ化、漫画化もされているのでご存知の方も多いかもしれません。
料理小説のイメージが強い本作ですが、「生き方」についても考えさせられる一冊です。
あらすじ
だらしない生活を送り、就職活動も全くうまくいかない一人暮らしの大学生・良太は、
ヤクザ同士の銃撃戦に巻き込まれ、組長・柳刃竜一と名乗る男に居座られてしまう。
そんな柳刃は料理が趣味で、部屋のキッチンを占領しては料理を作り、良太にもふるまう。
料理好きで寡黙なヤクザとの同居、恐怖と奇妙さが混在する生活のなか、
良太は少しずつ変わっていく。
湯気をあげた料理が頭に浮かぶ
「これは文章で書かれたレシピ本かな?」と、
思えるほど詳細に調理工程が書かれた料理シーン。
文章通りに想像すると、頭の中には美味しそうな料理が湯気をあげて待っています。
「あぁ、今すぐ柳刃達と同じものをアツアツで食べたい」
「キュウ・・・」と締め付けられるような空腹感に何度襲われたことでしょう。
では、その中から一番興味深かった料理、カマバターをご紹介いたします。
「カマバター?なにそれ?」と思われる方いますよね。
わたしもその一人でした。
不思議なことに文章を読み進めると、知らないはずのカマバターが頭の中で出来上がるのです。
冷蔵庫にレギュラーで鎮座していそうな材料のみで構成された料理。
皆さんもぜひ想像してみてください。
カマボコを五ミリくらいの厚さで切り、冷蔵庫にあったバターをフライパンにたっぷり溶かし、カマボコを炒めだした。
バターで炒めたカマボコに塩と胡椒を振り、箸で間隔を開けて均等にならべ、そこに溶き玉子を流し込んだ。玉子が半熟になったのを見計らって、醤油をまわしかけした
玉子でとじたカマボコはフライパンの形に沿って、丸く焼けている
まだ黄身がとろりとした玉子は、点々と散らしたネギの青さがきれいだった。玉子のなかに、こんがり焼けたカマボコが半月状の顔をだしている
いかがですか?
皆さんの頭の中に、カマバターが出来上がっていたら嬉しいです。
実際に作ったカマバターがこちらです。
美味しく頂くことができました。

食べることの尊さ
おれたちの稼業は、いつくたばるかわからん。くたばらなくても長い懲役にいきゃあ、娑婆の飯は食えない。だから、いいかげんなものは食いたくないんだ
組長・柳刃竜一から放たれる一言。
あることにハッとさせられます。
「いつくたばるかわからん」
これは柳刃竜一という男だけに起こることでは無い、
誰にでも同じことが言えるのだということに。
「食事」を一例にした一言ですが、日々の暮らしの尊さ、
「今」を大切にする気持ちに気付かされる一言です。
生き方と向き合うきっかけ
軽快に読めるストーリーですが、
読み流すことができない箇所がいたるところにちりばめられています。
それは登場人物たちが良太に放つ一言。
おまえは勉強が嫌いなくせに大学生になった。そしていま、仕事が嫌いなくせに就職しようとしてる。いっぱしに自分の考えがあるつもりで、結局はまわりにながされてるだけだ
きついこというようだけど、きみはデザインも文章も好きじゃないでしょ。この作品ともいえない作品を見れば、それがわかる。好きではじめたって、それを仕事にすれば、つらいことのほうが多い。好きでもないのにやれるほど、この仕事は甘くないよ
大学生の良太に向けて放たれている一言が、社会人の私にも容赦なく突き刺さります。
その中でも、実生活に最も影響を与えたのが、柳刃竜一のこの一言。
やれっていわれたら、すぐやるんだよ
脅迫に近いシーンで放たれた一言でしたが、良太は徐々に変化していきます。
「後でやるわ」、「面倒くさい」
生まれてから長いこと、数多繰り返してきた暗黒の言葉たち。
きっとこんなふうに後回しにすることで失ったチャンスは、
たくさん・・・あったのだと気付かされます。
最後に
「組長が家に居座る」という現実離れしたストーリーではあるものの、
食べること、生きることを見つめ直すきっかけをくれる一冊です。
組長・柳刃竜一いう男の存在により、
ぐうたらで流されてばかりの良太が次第に変わっていく様子がゆっくりと描かれており、
最後には読者に爽やかな気持ちと前向きさをもたらしてくれます。
作中のレシピはすぐにでも真似出来るお手軽レシピもたくさんありますので、
気になった方は、ぜひ作ってみて、そして熱いうちに召し上がってみてくださいね。