人は、一度めぐり合った人と二度と別れることはできない―大崎 善生 著『パイロットフィッシュ 』


「人は、一度巡りあった人と二度と別れることはできない―。」

今まで出会った人、関わってきた人、
家族、友達、恋人、過去の人・・・
年月が経つことで、すっかり忘れてしまっていることも多いと思います。

でもふとした時、今の自分の原型は全て過去の記憶・経験から成っていること
一度出会った・関わった人のことを全てさよならすることは出来ないということ

パイロットフィッシュ (角川文庫)はこんなことを教えてくれる、青春小説です。

 

あらすじ

午前二時、アダルト雑誌の編集部に勤める山崎のもとにかかってきた一本の電話。
受話器の向こうから聞こえてきたのは、十九年ぶりに聞く由希子の声だった…。
記憶の湖の底から浮かび上がる彼女との日々、世話になったバーのマスターやかつての上司だった編集長の沢井、同僚らの印象的な姿、言葉。現在と過去を交錯させながら、出会いと別れのせつなさと、人間が生み出す感情の永遠を、透明感あふれる文体で繊細に綴った、至高のロングセラー青春小説。吉川英治文学新人賞受賞作。(本帯より)

人は、一度巡り合った人と二度と別れることができない。なぜなら人間には記憶という能力があり、
そして否応にも記憶とともに現在を生きているからである。

 

パイロットフィッシュとは

一般的には熱帯魚の総称を指します。

「たとえばね、アクアリウムの上級者がアロワナとかディスカスだとか高価な魚を買ったとするだろう。高級魚というのは大抵神経質で弱いんだ。そんなときに、その魚のためにあらかじめパイロットフィッシュを入れて水を作っておくんだ。これから入る高級魚となるべく似た環境で生育した魚を選んでね。そして、水ができた頃を見計らって本命の魚を運んでくる。でね、パイロットフィッシュは捨ててしまうんだ」

このように、役目を果たしたパイロットフィッシュは本命の代わりとして働き、その後捨てられる運命となります。

記憶は消えることはない

 

小説の中で、主人公(41歳)は大学時代の恋人と再会するシーンがあります。

「由希子」
「うん?」
「スパゲティを食べるとき、僕は今でもスプーンの上でクルクルして音をたてないようにしているし、煙草が切れても絶対に灰皿のシケモクは拾 わない。なぜかわかる?」
「うーん」
「それはね、君が嫌がるからだよ」
「私が嫌がる?」
「そう。そうやってね別れて19年たって一度も声さえ聞いたことがなかったのに、僕は今でも確実に影響を受け続けているんだ。
それもものすごく具体的なことで今でも君は僕の行動を制約している。だから今でも人前ではチューイングガムは噛まない」

このように、主人公は、意図せずとも19年以上会っていなかった恋人の影響を今も受けて今も生活しています。
そしてその影響に気付くことはその会うまでの19年間なかったというように、
人は知らず知らずのうちに、関わる・出会う人からの影響や行動を受けていて、それがずっとその本人の一部を形成しているということがわかります。

パイロットフィッシュを読んで

「出会い」と「別れ」を避けることは出来ないのは言うまでもなくて、
時間が経つと忘れてしまっているように感じていることでも、不意に思い出したり、自分の習慣として残っていたりするということ。
無意識にいつも誰かの影響を受けて、制約されてしまっている。

この本を読んで、今までの人生の中で出会った人、起こった経験全てが今の自分に繋がっていて、
いい記憶も、そうでない記憶も、また不意に自分の中に現れてしまうもので消えないものなのだと感じました。

また何年後かに読み直すと、違った角度で読める気がします。

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鹿児島出身、関西在住。社会人2年目。 わたしの本棚 ライター 好きなジャンル:恋愛、ビジネス、エッセイ 好きな著者:江國香織、森絵都、東野圭吾、伊坂幸太郎、吉本ばなな、はあちゅう(敬称略) 商社でプロダクト関連のデザインのお仕事をしています。 書くこと、デザインすることをお仕事にしていきたく奮闘中・・・!