こんにちは、環(@echo3i_r)です!
私は今、20代ですが中学生、高校生の頃を思いだし、苦い思いをすることが時折あります。
過去を思い出しては囚われる自分が女々しいようで、情けなくて、好きになれませんでしたが、ご紹介する『クジラは歌をうたう』を通して、そんな自分を少し、肯定できたような気がしました。
悲しみや後悔、失恋、甘酸っぱい思い出・・・・・・。
10代のあの頃に、何かを忘れてきた人にぜひ読んでほしい1冊です。
〝好きだった子〟のブログを覗く
主人公は拓海、結婚を控えている30歳の男性です。
だがその拓海のちょっとした習慣は・・・・・・高校生の頃に好きだった女の子のブログを眺めること。
「拓海、それは駄目だろ!」の声がたくさん、返ってきそうな習慣です。
私も正直、読みながら思っていました。
「いや、結婚決まっているのに、昔好きだった子のブログを確認する? ちょっとそれは・・・・・・」
プロローグを読みながら、引き気味でした。
誰にも迷惑をかける行為ではないのですが、過去を振り返っている拓海の姿に、「わかる!」と思うか、「それは駄目だろ!」と思うのか、ここは読者の反応が分かれそうです。
ですが、彼の場合はまた少し特殊です。
――なぜならそのブログを書いている女の子 睦月は、10年以上前に死んでいるはずなので。
物語はそのもう更新されるはずのないブログが、10年ぶりに更新されたことに拓海が気がついたところから始まります。
それは「キミ」と、ブログの書き手から誰かに宛てられたメッセージでした。
察しのよい方はもう予想がついているかもしれませんが、
- 拓海はその「キミ」は自分だと疑わず
- 届くはずのないメッセージに動揺
- 婚約者の睦月に対しても気持ちが揺らぎ
- それを婚約者にも隠せない
という女性読者の怒りを買う行動を、この拓海はしちゃうわけです。
なお死んだはずの睦月が黄泉の国から蘇った、みたいなホラー展開ではありませんのでご安心ください。
大切な人を失う悲しみを抱えて
物語が綴られていくなかで明らかにされていきますが、主人公の拓海は喪失感を抱えて生きていました。
それは好きだった女の子が死んでしまったからでもあり、そのほかにも大切な人を失った経験があるからです。
私自身もそうですが、それなりの年齢になりますと。人と出会い、そして別れを繰り返しながら日々を送っていくものです。
中には、死別や喧嘩別れなど、もう二度と繋がることがない別れも、もちろんあります。
この本を読みながら、
- 人は過去から切り離して生きる、なんてことはできないのかな、と感じました。
- 過去に何かを忘れていたり、逆に忘れてしまいたい何かを残していたりしているものだから、
ふとしたきっかけで簡単にその忘れ物に引っ張られてしまうもの。 - でも時が経つなかで、その忘れ物やしこりを、少しずつ思い出にできているのかもしれません。
すでに述べましたが、結婚を控えた30歳の男が、過去に好きで死んでしまった女の子のブログを定期的に見返してしまう、若干イタいプロローグから物語がスタートします。
もやもやを婚約者の前で隠せずにいたり、女性読者は読みながら「拓海!!」とイライラしたり、「違うだろ!」と突っ込んでしまったりもすると思いますが、優しさに包まれた物語です。(だからお勧めしたいんです!)
失恋や言えなかった憧れ、ちょっとした後悔・・・・・・。
戻れない過去に、何かを忘れてきた大人たちへの物語だと思います。
蛇足ですが
作者の持地佑季子さんは、シナリオライター。今作が初めての小説なんだそうです(私は恥ずかしながら存じ上げませんでした)。
だからなのかもしれませんが、拓海が住む東京、10代の日々を過ごした故郷の沖縄、現在と過去が交差し、進んでいく物語の構成は美しく、そして見事だと思いました。どこか映画っぽさも感じられて、そういう意味でも面白かったですよ。
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