夏のノスタルジックな思いがつのる。 佐藤多佳子 著 『サマータイム』

こんにちは、環(@echo3i_r)です!

梅雨も明け、季節は夏。私は暑さに弱いので、夏は苦手です。
しかし! 私は映画や小説のなかで登場する、言わば“概念としての夏”は大好物。
夏特有の空の青さ、なかなか沈まない太陽、白い砂浜と海、かき氷にソフトクリーム、花火に浴衣・・・・・・フィクションに登場する夏が大好きです!

ということで、個人的ベスト オブ 夏本 佐藤多佳子さんの小説『サマータイム』を、今日はご紹介します。
この『サマータイム』、佐藤多佳子さんのデビュー作なのです、佐藤さんファンは必読の一冊ですよ!

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夏の瑞々しさと漂うノスタルジア

この本は、主人公で小学生のぼくと勝ち気な姉、そして近所に住む広一くんの三人で過ごした、淡いひと夏の思い出を描いた表題作と、その姉妹編となるストーリーを綴じ込んだ、連作短編集です。
初めて読んだときはちょっとした衝撃でした。読みながら鳥肌だつような感覚にくらくらしたのを覚えています。

【あらすじ】
佳奈が十二で、ぼくが十一だった夏。どしゃ降りの雨のプール、じたばたもがくような、不思議な泳ぎをする彼に、ぼくは出会った。左腕と父親を失った代わりに、大人びた雰囲気を身につけた彼。そして、ぼくと佳奈。たがいに感電する、不思議な図形。友情じゃなく、もっと特別ななにか。ひりひりして、でも眩しい、あの夏。他者という世界を、素手で発見する一瞬のきらめき。鮮烈なデビュー作。

 

小学生にとっての、夏

表題作「サマータイム」は、小学生の姉弟(ぼく:進・姉:佳奈)の、その夏に友達になった男の子 広一くんとの交流を描いた作品なのですが、描かれている小学生らしい感覚が本当に素晴らしい。

例えば、姉の佳奈は、女王様キャラ。わがまま放題で。弟の進にぶっ飛んだことも平気で言っちゃいます。

「あんた、山で大きな木の下じきになって死ぬのと、海で溺れ死ぬのとどっちがいい?」

ただ、嫌な奴というわけではなく、そのキャラクターが何ともチャーミングで憎めないんです。
いつもは進に偉そうで高圧的な態度もとるけれど、何かあったときは進を心配してくれるし、味方になってくれる。
とても魅力的な女の子だと思います。
きょうだいのリアルな距離感が実に巧みに描かれていて、私自身には佳奈のような姉はいないのに、「こういうお姉ちゃん、いるよね」って思っちゃうんですよね。

ぼくこと進は、わがままな姉・佳奈に振り回されていた夏休みの終わり、左腕がない男の子 広一くんという男の子に出会います。
夏休みの終わりに友情と恋愛が始まり、高揚感や甘酸っぱさ、そして夏休みが終わる物悲しさ・・・・・・そんな瑞々しくてノスタルジックな短編です。

ちなみに、「サマータイム」というのはジャズの曲名にちなんでいます。
私はこの小説をきっかけに聞いてみたのですが予想以上に切なく・・・・・・小説を読みながら聞くのも良いかもしれません。

瑞々しい絶妙な文章が絶品です

この小説でいちばんイイな!と思っているのが、文章です。もうこれは譲れない。
それぞれが抱えたモヤモヤ、鬱屈した感情を小学生らしい、軽やかで瑞々しい絶妙なタッチで描かれているんです。これが本当に素晴らしい。大好きです。
文章そのものは、さらさらと流れていく軽さなんですが、随所に鳥肌だつような言葉が織り込まれているんですね。

私が、読むたびにガツンと衝撃を受けるのが、この文章。
佳奈が作ったゼリーを、三人で食べるシーンです。

八月三十一日。ゆるい冷房をきかせた団地の部屋。プラスチックのボールの中の海。青と緑の冷たい、しょっぱい、不思議な海の味だ。ぼくらは頭を寄せあい、時々誰かとスプーンをカチャっとぶつけたりしながら、それを食べた。
スプーンの上のゼリーは、まるで透きとおった色ガラスのかけらのようなんだ! ひと口めは、南の海の波、きらきらしたブルー。ふた口めは、海草の色、謎めいたグリーン。み口めは、深い冷たい水底の色、青緑。
いつかどこかで見た、一番美しい海の風景を、ぼくらは思い浮かべていた。はだにひりりと痛い日差し、熱いにおいの夏の風。佳奈も広一くんも、そんなイメージを追うかのように、ちょっとうっとりした遠いまなざしでボールのゼリーをすくっていた。

書評を書くにあたって「素晴らしい」という表現はあくまで個人の主観なので、避けているつもりなのですが、今日は使っています!!
『サマータイム』、本当に素晴らしいです。

すごいのは、表題作だけじゃない

表題作のサマータイムが個人的に突出して素敵だと思っているのですが、すごいのはこの短編だけではありません。

「五月の道しるべ」

姉の佳奈が、小学生になったばかりの頃を“私”として振り返るお話です。

家に突然やってきた、アップライト・ピアノ。
佳奈ははピアノを習わされることになりますが、性に合わなくてピアノをどうしても好きになれません。

弟の進が楽しみにしているアニメの時間に、わざとピアノの練習を始めて、「あんた、ジャマよ! どっか、行っちゃってよ」と怒ったり、この頃からワガママ炸裂。
ですが、このシーン、きょうだいには「あるある」ではないかなあと思ったり。
そういった等身大のシーンが、少しずつ差し込まれているあたりがまた、たまりません。

「サマータイム」のゼリーのシーンのように、この「五月の道しるべ」にも象徴的なシーンがあり、これがまた素敵です。

「九月の雨」

「サマータイム」から三年後、広一くんの“俺”という目線で語られる、お話。

「サマータイム」でも語られるのですが、広一の母はジャズ・ピアニスト、父とは死別しています。
広一の母は恋人をつくっては別れをくり返しているのですが、今の恋人 種田さんは、死んだ父親とはまったく雰囲気が違う人。

広一と仲良くなろうとする種田ですが、やることがすべて裏目にでてしまい・・・・・・。
大人と子どもの境目に立つ、広一くんの心情の機微が事細かに描かれていて、少し切なくて、心あたたまる短編です。

「ホワイト・ピアノ」

「サマータイム」から二年後、中学生になった佳奈が“私”として語る、ピアノの調律師 センダくんとの物語。
広一と出会った後の佳奈の姿は、少しセンチメンタルで、でも相変わらずチャーミングで読んでいて微笑ましいです。

ワガママな子どもからだんだんと大人になろうとしている佳奈の描写が、私はとても好きです。

話はそれますが、ピアノの調律師が主人公の小説として、本屋大賞を受賞し映画化もされた、『羊と鋼の森』(宮下奈都)がありますが、文庫版あとがきは佐藤多佳子さんが担当されており、あとがきにてこのセンダくんのことが触れられています。
私が初めて出会った調律師はセンダくんだったので、このあとがきを読んだときに、懐かしく嬉しい気持ちになりました。

結びにかえて

佐藤多佳子さんはこの「サマータイム」で月間MOE童話大賞を受賞されたそうです。
童話といいますと、子ども向けのような気がしますが、素敵な優れた小説において、それを大人向け・子供向けと区別するのは、あまり意味のないことなのかもしれません。

手にとって頂いたら分かると思うのですが、ボリュームは少なめ、そして一人称語り手なので、さくさく読めると思いますので、お気軽に読んで頂けたらと思います。
紹介しすぎるのも野暮なので、続きは小説にてお確かめください。

以上、私のイチオシ夏本の紹介でした。ここまで読んで頂いた方、ありがとうございました。

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ABOUTこの記事をかいた人

福岡県出身、社会人3年目 よく読むジャンル:なんでも読む雑食系ですが、ミステリーやファンタジーをよく読みます。特に上橋菜穂子/恩田陸/辻村深月(敬称略) 読書は生活の一部。 ご紹介する本が、皆さまにとって良き出会いとなりますように。