現実と虚構のはざま、現代の怪綺談。 芦沢 央 著 『火のないところに煙は』

こんにちは、環(@echo3i_r)です!

さて、本屋大賞候補作をぞくぞくと読んでいくキャンペーンを個人的に実施中ですが、
今回は少し怖い(?)候補作をご紹介します。
芦沢 央さんの怪奇小説『火のないところに煙は』です。

ひょっとしたら実話!? 薄気味の悪いノンフィクション仕立て

この小説は5編の短編から成る、物語。
ちょっとした出来事がきっかけで、ある怖い話を執筆することになったライターの目線で、
物語は進んでいきます。

「小説新潮」から短編小説の依頼を受けたのは、二〇一六年五月二十六日、『許されようとは思いません』という本の再校ゲラを戻し終えたまさにその日だった。

これは、本書の書き出しの一節。
この『火のないところに煙は』は、版元が新潮社ですし、作者の芦沢央さんは『許されようとは思いません
という本も書いているんです。

「もしかして、これって、実話……?」と錯覚するような、ノンフィクション感がなんとも薄気味悪いです
わたしは第1話を読み終えたとき、「しばらく神楽坂にはいきたくないなあ」と思うし、この本を「なんで買っちゃったんだ…」と後悔すらしたほどです……。
この本の多くを、通勤途中の電車のなかで読んでいたのですが、真夜中にひとりでページをめくっていたらと思うと、少しぞっとします。怖いものが苦手な方は、ぜひ人がたくさんいるところで読みましょう!(人ごみの中で読んでいても、背筋が凍るようなうすら寒さを感じながら、わたしは読みました。)

語りつがれる“怪異”

読後にしみじみと、“火のない所に煙は立たぬ”ということわざについて、思いを巡らせました。
火のない場所に煙がないように、縁あるところにしか怪奇は寄り付かない、のかもしれません。

怪奇は人が語り継ぐものですので、人から人へと伝わるうちに、
大きく脚色されてしまったり、逆に風化してしまったり……生き物のように少しずつ、変容していきます。
単純に怖い話と言い切られず、人と人の一種の繋がりなのかな、とも思いました。

もう少しミステリ色が強い、不気味なお話として、以前にご紹介した米澤穂信さんの『満願』
読み終えてしばらくして、思い出しました。

決して似ているわけではありませんが、この『火のないところに煙は』といい、
人は何かを望んだり願ったり、救いを求めたり、憎んだりしてしまう、
感情豊かな生き物なのだな、と思います。

あまりこの本について多くを語ると、ネタバレにつながってしまいそうですし、
私も怪奇に縁を持ちたくはありませんので、今回はこのあたりでおしまいにしたいと思います。

怖い話がそこまで得意ではないので、もうしばらくは怪奇小説は結構、とお腹いっぱいな感じです。
怖さの毛色としては、身の毛がよだつ恐ろしさ、というよりはじわじわときいてくるタイプの恐怖でしょうか。
怖い話好きなかたはもちろん、怖いもの見たさの人もぜひ、手に取ってみて下さい。
怖いだけ、ではなくミステリ要素もあり、読みごたえはたっぷりです。

少し不気味な、怪奇の世界にあなたもどうぞ。
2019年本屋大賞候補作の中でも独特な存在感をただよわせる作品です。

火のないところに煙は [ 芦沢 央 ]

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