愛が溢れる新しい家族小説。 瀬尾まいこ 著 『そして、バトンは渡された』

こんにちは、環(@echo3i_r)です!

わたしが先日から個人的に慣行している本屋大賞候補作を読み進める企画も、いよいよ後半戦。
『そして、バトンは渡された』をご紹介します。
感動の度合いは定量的に伝えられないけれど、今年いちばん心が動かされ、泣いた本です。
たくさんの愛情とぬくもりがつまった、新しい時代の家族小説のように、わたしは感じました。

あらすじ

血の繋がらない親の間をリレーされ、四回も名字が変わった森宮優子、十七歳。
だが、彼女はいつも愛されていた。身近な人が愛おしくなる、著者会心の感動作。
Google Booksより

十七歳の主人公 優子は、これまで家族の事情で四回も名字が変わっている女子高生。
これまで母は二人、父は三人。
今は、二十歳年上の森宮さんがお父さん。
森宮さんは優しくてお料理上手、だけど少しズレていたり、あまりモテるタイプではありません。

この小説は十七歳の優子が、一緒に暮らすお父さんの森宮さんとの日々の生活を
これまでの優子の父や母を振り返りながら綴る、そんな物語です。

家族は、つくられていく

親がたくさんいる、ということ

これまで、四回も名字が変わった優子。
一般的に考えると、周囲からは「大変だったでしょ?」「辛かったでしょ?」と声をかけられるかもしれない、特殊な家族事情。
わたしも自分の親友が、名字だったり親だったりが何度も変わると、「大丈夫かな」と心配をしてしまうと思います。

けれど、優子は親が何人もいることを不幸だとも大変だとも、辛いとも思っていません
それは、ひとりひとりの親が優子へ愛情を抱き、接し、育ててきたから。

たとえば十七歳となった優子と一緒に暮らしている森宮さんが口にする、こんな言葉があります。

「おれは、人であったり、男であったりする前に、父親だから」

ふつうは、「父親である前に、人であり、男だ」ではないか、と思うけれど、森宮さんにとっては、違うんです。
人間性や、性別と同じくらい、優子の父親であることが自分自身の一部分だ、と思っている。
「父親とは、こういうものだろう?」とときどき少しずれた父親論を優子に持ちだす時もあるけれど、そこがチャーミングでもあり、たくさんの愛情を注いでいるんだなあと微笑ましいです。

愛情をもって、優子に関わってきたのは森宮さんだけではなく、これまでの父親・母親もそう。
皆がそれぞれに、自分なりの愛情を優子に注いできたから、彼女は不幸だとか恵まれないとか、感じなかったのだと思います。

家族だって、友達とおんなじ

物語は、基本的に十七歳の優子が森宮さんと暮らしながら日々を送り、これまでの自分を振り返りながら進みます。
そのなかで、ふとした出来事がきっかけで優子と森宮さんの関係はちぐはぐになってしまいます。

実は父親とうまくいっていかなくて、と友達に打ち明ける優子に、友達が返した言葉がとても印象的です。

「家族だって、友達と同じように時々ぶつかったり自分の思いを漏らしてはぎくしゃくして、
作られていくんじゃないの?」

一般的に、家族って特別なものとして扱われるじゃないですか。
家族は特別なんだから仲がよくて当たり前、みたいな風潮。
家族だって、ひとつの社会的な共同体に過ぎなくて、少しずつ“家族”になっていくもの。
うまくいかない時もあるし、関係性が破たんしてしまう時もあるかもしれない、でも、それも“家族”。

血が繋がっていても、繋がっていなくても、家族。
親が子に向ける愛情に、きっと差はないんだろうなと思います。

明日がふたつになる

森宮さんが優子の父親になったきっかけは、当時付き合っていた女性 梨花さんが、優子の二人目のお母さんだったから。

「梨花が言ってた、優子ちゃんの母親になってから明日が二つになったって。
自分の明日と、自分よりたくさんの可能性と未来を含んだ明日が、やってくるんだって。
親になるって、未来が二倍以上になることだよって。
明日が二つにできるなんて、すごいと思わない?
未来が二倍になるなら絶対にしたいだろう。
それってどこでもドア以来の発明だよな。
しかも、ドラえもんは漫画で優子ちゃんは現実にいる」

価値観が多様化していく中、家族のあり方も当然変わっていくはず。

実際に、優子に起こったような出来事は起きないのかもしれないし、
優子のように複数の親からたくさんの愛情を受けて育つ、子どもはいないかもしれない。
だけど、物語の後半になり、大人になった優子の旅立ちの場面を読んでいると、
そんなことはどうだっていいや、と思いました。

現実にあるかどうか、なんて関係ない。
これはすべての親と子に向けられた、祝福の物語なんだって。

家族の一員として生まれ、育った、そんなあなた。
今、親として子を育てている、あなた。
そしてこれから、家族を築き、親になるかもしれないあなた。
そんなあなたたちに、たくさんの人に読んでほしい物語です。

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