死後も生き続ける“人”と“言葉”。 木皿 泉 著『さざなみのよる』

こんにちは、環(@echo3i_r)です!

本日は、木皿泉さんの小説、『さざなみのよる』をご紹介します。
こちらの小説も2019年の本屋大賞候補作のひとつ。
ぬくもりと希望あふれる、14の短編から織りなされる、物語です。

あらすじ

わたしは幸いなことに父も母も、そして父方と母方の祖父母も健在で、
自分にとって近しい誰かの死、というのをはっきりと体験したことがありません。
ただ、わたしという1人の人間と深く関わってきた誰かがいなくなるということは、
自分の一部分が欠けるような、そんな感覚なのではないか、と漠然と感じていました。

この『さざなみのよる』は、この世を去ったナスミという女性が残した言葉やその生き様が、
死後いろいろな人の心に届いていく、という物語です。

14あるエピソードのうち、はじめはナスミの姉妹や夫、というきわめて近い人のエピソードが綴られます。
後半では一時期の同僚や、彼女が愛読していた漫画の作者、そして彼女と面識のない小さな女の子にもナスミという存在が響いていくのですが、ナスミが残したメッセージがゆっくりと紐解かれ、時を越えいろいろな人の心を支えたり、救ったりしていく様子は、読んでいて胸がいっぱいになりました。

特別でない女性の、普通の死

ナスミの言葉が死後、いろんな人に響いていく、なんて表現をすると彼女がとても素敵だったり、特別な女性のようですが、彼女はどこにでもいる、普通の人でした。
特別な存在でも、特徴的な美人でも、天才でも、皆から愛されたわけでもない、そんなどこにでもいる女性だと思います。

もともと人間なんて、思い通りになんてならないのに。それがわかったのは病気になってからだ。あの頃の自分に教えてやりたい。あんたは、自分で考えていたのより百倍幸せだったんだよって。

これは、ナスミが存命中に、自身の半生を振り返る場面の言葉です。
彼女の「あんたは、自分で考えていたのより百倍幸せだった」という言葉の通り、人はその瞬間のことを客観視できません。
あとから考えて、「あの時は幸せだったんだ」と懐かしんだり、
「あれは、失ってはいけないものだった」と後悔したり。

時間を巻き戻すことは、誰にもできなくて、私たちはきっと人生の中で一瞬のきらめきや感動、尊さを見逃しているのだと思います。

ナスミが口にする言葉は、特別なものではないけれど、不思議なことに、どこか力があって、まわりの人やわたしのような読み手は、ぐっと心を掴まれ、心地よい余韻をもたらしてくれます。

作中のひとつひとつのお話は長くなく、とても読みやすいです。
遠くない未来で、わたしはきっと大切な誰かと永遠の別れをしなければならない日がくると思うけれど、そのときにきっとこの物語に救われる。そう感じました。

人生のぬくもりと希望をそっと教えてくれる、祝福の物語です。

created by Rinker
¥1,512 (2019/05/22 11:02:18時点 Amazon調べ-詳細)

amazonから1話だけ無料で特別試し読みもできるみたいです。

余談ですが、木皿泉さんと『富士ファミリー』について

わたしは、この『さざなみのよる』で、初めて木皿泉さんの本を読みました。
ほかの作品でいうと、過去本屋大賞にもなっていた『昨夜のカレー、明日のパン』を覚えています。

読後にはじめて知ったんですが、木皿泉さんは夫婦脚本家!

そして『富士ファミリー』というNHKのドラマで、ナスミたちをはじめとした家族の物語が綴られているんだそうです。
ナスミが小泉今日子さん、ナスミの姉が薬師丸ひろ子さん!
個人的にナスミは、ぼんやり小泉今日子さんを想像していたので、このドラマのことを知った時はびっくりしました。

2016年に放映されていたそうなのですが、DVDもあるみたいなのでぜひ見てみたいと思います。