悪に立ち向かう小さなヒーロー。伊坂幸太郎 著『フーガはユーガ』

こんにちは、環(@echo3i_r)です!

今日は、伊坂幸太郎さんの最新作、『フーガはユーガ』をご紹介します。
先日、発表されている2019年本屋大賞の候補作にもなっていますよ~~!

フーガはユーガ

まずはこの装丁、よーく見てください。
青い扉?があって…

よーく見てみると、二人分のシルエットが……!

とても粋なデザインだなあと思います。
そう、この『フーガはユーガ』は兄弟の、双子の物語なんです。

僕たちは双子で、僕たちは不運で、だけど僕たちは、手強い。

あらすじ

常盤優我は仙台市のファミレスで一人の男に語り出す。
双子の弟・風我のこと、決して幸せでなかった子供時代のこと、そして、彼ら兄弟だけの特別な「アレ」のこと。
僕たちは双子で、僕たちは不運で、だけど僕たちは、手強い。

Google booksより

 

弱者に向けられる悪意に立ち向かう

語り手は優我(ユーガ)。
双子の弟、風我(フーガ)がいて、彼がある男に自分たち双子の話を始めるところから物語は幕を開けます。

物語冒頭で明かされますが、優我と風我は父親から暴力を振るわれていました。
実はわたしが読んでいた当時、親による暴力で子どもが殺されてしまった、という大変ショッキングな事件が報道されていました。
父親により暴力を受けるシーンは不条理で、読んでいると目をそらしたくなるし、
「誰か周囲の大人が助けてくれないのか?」と願わずにはいられませんでした。

彼らの境遇を示す、象徴的なシーンがあります。
中学三年生になった双子。高校には進学しない、と言う風我に対して先生が進学をしたほうがいい、と説得する場面です。

「どうして、そんなに一生懸命なんですか」
卒業したら働く、という方針を変えなかった風我は、最後にそう訊ねた。
先生は、眼鏡をかけた四角い顔の、生真面目な顔つきだったのだけれど、「単に心配なんだ」と答えた。

「先生も、俺たちのアパート来たことあるから、分かってると思いますけど、そういう意味ではうちは、先生が心配になることだらけ、ですよ。貧乏だし、無関心な母親と、ひどい父親と」

先生は呆気に取られたようだった。役所に相談、であるとか、児童養護施設がどうこう、であるとか言いかけた。

「大丈夫です」僕は言い、風我も同時に首を横に振った。
「気持ちは嬉しい。だけど、簡単に解決しないことは俺たちのほうが分かっている

周囲の人も、心配はしてくれるんですよね。
だけど、そこから一歩踏み込んだ対応はしないんです。
これは、おそらく現実にも似たようなことが起きているのだと思います。

誰も踏み込んでくれないし、そう簡単に解決しないことを双子も分かっていて、諦めていることが分かるシーンです。
確かに親による暴力は許されるものではないけれど、社会全体への絶対悪か?と問われると、そうじゃない。

社会全体への悪、弱者への悪

伊坂幸太郎さんのほかの小説の話をすると、

  • 『魔王』では 国民的人気を集める首相
  • ゴールデンスランバー』では 国家
  • 火星に住むつむりかい?』では 平和警察

という悪が登場します。
これはいわゆる、社会的な悪、です。

だけど、今回の『フーガはユーガ』で登場する悪は、
社会全体への悪ではなく、子どもなどの弱者へ振るわれる悪、がフォーカスされているんです。

作中で描かれる弱者への悪の被害者は、双子だけではありません。
描写される悪意は、読んでいて正直、つらいなとも思いました。
誰か助けてくれよ、と思うけれど弱者である一個人に向けられる悪意に対して、救ってくれる誰かは登場しません。

伊坂幸太郎作品に象徴される、悪に立ち向かう小さなヒーローという構図はこの作品でも同じ。
双子は、ちょっと不思議な力を持っていて、それを使って悪と向き合うことになります。

誕生日の日に起こる、“瞬間移動”

優我と風我、ふたりはなんと、“瞬間移動”という不思議な力が、ある一定の条件のもとで使えることに気が付きます。

この瞬間移動を軸に、物語は一気にスピードアップ。
弱者へ向けられる悪意という負のシーンを凌駕するように、怒涛の展開で伏線が回収されていきます。

「俺の弟は、俺よりも結構、元気だよ」

『フーガはユーガ』を読み始める前は、「フーガとユーガ、じゃないのか」と思っていたんです。
双子の物語だし、それなら「フーガとユーガ、じゃないの?」って。

だけど読み終えた今、改めて思うとこの物語はフーガはユーガ、なんです。

風我と優我は双子、ふたり揃えばけっこう手強い、最強で最高のふたり。
双子が織りなす、温かで、でもほんの少し切ないヒーローの物語。

迷っているならすぐに読んでほしい、そんな作品です。

どうやら、あいつは元気みたいです

以前、おなじ伊坂幸太郎さんの『砂漠』という小説を紹介しました。

この『フーガはユーガ』、『砂漠』に登場するある人物がひょっこり登場しています。

どうやらあいつは、元気にやっているようです。
再会できて、ちょっと嬉しくなりました。

余談だけど、本屋大賞候補として『フーガはユーガ』を考えてみた

ここから先は、完全な余談です。
好みは別にして、2019年の本屋大賞候補について少し考えてみました。
二十うんねん、読書好きとして生きてきた、ひとりの小説好きとしての意見ですので、片手間程度に読んでいただけたら…。

本屋大賞候補作を、今日まで

『熱帯』『ベルリンは晴れているか』『愛なき世界』『ひとつむぎの手』と四作読んだのですが…

『フーガはユーガ』、これは大賞とるのでは…?と、思っています。
正直、『愛なき世界』『ひとつむぎの手』も甲乙つけがたい!

本屋大賞って、面白さとか社会への提言、みたいな側面だけではなく、やっぱり人にお勧めしやすいかどうかって大きいと思うんです。
これまで読んだ候補作の中で、読書好きじゃない人にもお勧めしやすいなあと思うのが、『愛なき世界』『ひとつむぎの手』『フーガはユーガ』ではないかと。

もちろん『熱帯』や『ベルリンは晴れているか』が面白くないっていう意味じゃないんですよ!
だって面白いから候補になっているんですから!
面白いし、むしろ好きです、こういう作品だからこそ大賞受賞してほしいとも思う!
(このあたりの思いを語れば長くなります……。)

伊坂幸太郎さんって、これまで15回の開催の中で11作が候補になっていて、一度大賞もとっているんですよね、いやはや凄い。
作家個人では、いちばん候補に名前を連ねていらっしゃる方なのです。
いわば本屋大賞候補の常連さんで、この賞が始まってから、、愛されている作家さんの五本指くらいに入りそうな気はします(勝手な所感です)。
一度大賞をとった作家さんがどれだけ支持されるだろう、という気持ちは少しありますが、恩田陸さんが『夜のピクニック』『蜜蜂と遠雷』で大賞を受賞していますから、分からなあとも思います。
(恩田陸さんは伊坂幸太郎さんと違って、本屋大賞候補の常連というわけでもないので、単純な比較はできない気もしますが。)

……とここまであれこれ語りましたが、全作品読んでもいないので、何の説得力もないですが。
ほかの候補作品も、つい買ってしまいましたのでいずれまたこういう記事も書いてみたいなあと思っています。
(候補作をぜんぶ読むことができたら、だけど。)

created by Rinker
¥1,540 (2019/10/22 12:15:20時点 Amazon調べ-詳細)

ABOUTこの記事をかいた人

福岡県出身、読書が好きな社会人。 なんでも読む雑食系ですが、ミステリーやファンタジーをよく読みます。特に上橋菜穂子/恩田陸/辻村深月(敬称略)など。 読書は生活の一部。 ご紹介する本が、皆さまにとって良き出会いとなりますように。
合わせて読みたいおすすめの1冊