平成最後の直木賞、候補作5冊をご紹介します!

こんにちは、環(@echo3i_r)です!

さて、明日1月16日に発表される、第160回直木三十五賞。
今回はその候補作5冊すべてを簡単にご紹介することにしました。

「何か読んでみたいな」と考えている方の本選びの一助になれば嬉しいです。

候補作一覧

候補作一覧
  • 童(わらべ)の神 / 今村翔吾 (角川春樹事務所)
  • 信長の原理 / 垣根涼介 (KADOKAWA)
  • 宝島 / 真藤順丈 (講談社)
  • ベルリンは晴れているか / 深緑野分 (筑摩書房)
  • 熱帯 / 森見登美彦 (文藝春秋)

※作者名50音順

実はこの5冊中3冊は現代の日本とは明らかに異なる土地や時代が舞台となっています。
例えば…

  • 信長の原理 :戦国時代、織田信長が主人公となった物語
  • ベルリンは晴れているか: 1945年第二次世界大戦直後のドイツが舞台
  • 童の神:平安時代の京都が舞台

残る『宝島』は、1950年代のまだアメリカ占領下にあった沖縄が舞台、
『熱帯』は設定こそ今の日本ではあるのですが、著者・森見登美彦さん独特の世界観で織りなされた物語なので、今の日本が舞台です、というわけではないような…。

ただ共通して言えるのは、違う時代や他の国の話でありながらも、今のわたしたちにとって地続きの問題を取り扱い、考えさせるような作品ばかりであるということ。
この風潮は小説の面白みでもあり、小説とは時代を映す鏡でもあるのだなあと感慨深くもあります。

さて、次からは各小説の紹介をしていきますが、この記事は直木賞予想記事ではありません。
正直なところ候補作すべてが面白く、どの作品が受賞しても、今の日本に一石を投じるのではないか、そう感じました。

童(わらべ)の神 / 今村翔吾

created by Rinker
¥1,728 (2019/02/21 12:27:30時点 Amazon調べ-詳細)

平安時代が舞台の、歴史エンターテイメント小説!

【あらすじ】

平安時代「童」と呼ばれる者たちがいた。彼らは鬼、土蜘蛛、滝夜叉、山姥……
などの恐ろしげな名で呼ばれ、京人から蔑まれていた。
一方、安倍晴明が空前絶後の凶事と断じた日食の最中に、
越後で生まれた桜暁丸は、父と故郷を奪った京人に復讐を誓っていた。
さまざまな出逢いを経て、桜暁丸は、童たちと共に朝廷軍に決死の戦いを挑むがーー。
皆が手をたずさえて生きられる世を熱望し、散っていった者たちへの、祈りの詩(うた)。

この『童の神』は平安時代が舞台となった、歴史エンターテイメント小説です。

皆さんはタイトルの“童”という文字を見て、どのようなイメージが浮かびますか?
“童話”や“童謡”といった言葉にも使われている漢字で、わたしは“子ども”から連想する、ほのぼのとした雰囲気を思い浮かべましたが、この漢字は奴隷的な意味合いを持っています。

この物語の舞台である平安時代、朝廷に属さない先住の人々は“童(わらわ)”と呼ばれており、彼らは鬼、土蜘蛛、滝夜叉、山姥……といった恐ろしげな名前で呼ばれ、京の人々から虐げられていました。
主人公となる桜暁丸(おうぎまる)も、「有史以来最悪の凶事」とした、皆既日食の日に生まれ落ちたため、陰で禍の子と呼ばれていました。

差別された“童”たちの戦い

主人公、桜暁丸は父を朝廷側の人に殺され、故郷を追われてしまい、復讐を誓います。
当初はその憎しみの気持ちだけで突っ走っていくのですが、様々な人との関わりの中で成長を遂げていきます。

朝廷に征伐された側の歴史は、表では綴られることがありません。
しかし彼らには抱えていた熱い思いがあり、自分たちの存在を理解してもらうために、戦いつづけました。
征伐された彼らの息吹をすぐ間近で感じることができる、臨場感たっぷりの1冊です。

わたしは、桜暁丸の兄貴分にあたる人物の、この言葉が大好き。
桜暁丸の心を憎しみから別の感情に、そっと後押しをしてくれるような力を持っていると思います。

「独りよがりだと思うか?あの娘一人救っても何も変わらんと考えていたのだろう。
(中略)よいではないか。目の前の一人を救うことしか俺にはできぬ」

自分の子や、妹・弟分、仲間や相棒、連れ合い、そして百年・千年先の子たちへの愛を胸に戦った者たちの、愛の物語。
差別という問題は今もなお、残ったままです。

“童(わらわ)”と呼ばれた者たちの物語の名は、“童(わらべ)の神”。
この違いにも、しっかりと意味があります。ぜひ、本書で確かめてほしいです。

信長の原理 / 垣根涼介

created by Rinker
¥1,944 (2019/02/21 12:27:30時点 Amazon調べ-詳細)

現代のロジック × 戦国時代

【あらすじ】

何故おれは、裏切られ続けて死にゆくのか。

織田信長の飽くなき渇望。家臣たちの終わりなき焦燥。
焼けつくような思考の交錯が、ある原理を浮かび上がらせ、
すべてが「本能寺の変」の真実へと集束してゆく――。
まだ見ぬ信長の内面を抉り出す、革命的歴史小説!

吉法師は母の愛情に恵まれず、いつも独り外で遊んでいた。長じて信長となった彼は、破竹の勢いで織田家の勢力を広げてゆく。だが、信長には幼少期から不思議に思い、苛立っていることがあった――どんなに兵団を鍛え上げても、能力を落とす者が必ず出てくる。そんな中、蟻の行列を見かけた信長は、ある試みを行う。結果、恐れていたことが実証された。神仏などいるはずもないが、確かに“この世を支配する何事かの原理”は存在する。そして、もし蟻も人も同じだとすれば……。やがて案の定、家臣で働きが鈍る者、織田家を裏切る者までが続出し始める。天下統一を目前にして、信長は改めて気づいた。いま最も良い働きを見せる羽柴秀吉、明智光秀、丹羽長秀、柴田勝家、滝川一益。あの法則によれば、最後にはこの五人からも一人、おれを裏切る者が出るはずだ――。

皆さんは“パレードの法則”をご存じでしょうか?

イタリアの経済学者ヴィルフレド・パレートが発見した法則で、よく言われる
「5匹の蟻がいたら、1匹はまじめに働き、3匹は日和見をし、1匹はさぼる」というものです。

本書、『信長の原理』では幼少期の信長がこの“パレートの法則”を蟻の群れを眺めている時に発見し、大人になると自軍の組織にも当てはまることに気が付く、というもの。
作中で信長はこの“法則”を応用して、組織・人事を動かしていきますが、
その結果、織田家はだんだんと歪みが生じていき、明智光秀による“本能寺の変”が起こるように描かれています。

現代の定理を使い、歴史を紐解いていくというユニークな構造は、新鮮であっという間に読みえました。
織田信長・豊臣秀吉・明智光秀などの武将を合理的に解釈し、内面を照らす語り口は新しい発想でとても面白いです。
今を生きるわたしたちにとっても「なるほど」と手を打ちたくなるような言葉にきっと、出会えるはず。

わたしは、弾正という信長を裏切る人物のこの言葉が、人間という生き物の理をうまく捉えているように思い、印象深く残っています。

人間、生れ落ちる場所は選べない。しかし死に様は選べる。
どういう死に方をするかだけが、およそ万物の中で人という生き物にのみ許された、末期の希望だ。

 

“織田家”という組織

この『信長の定理』では“織田家”という組織を切り取り、組織論の観点から光を当てるという歴史小説では珍しい構造で、綴られています。

当時の織田家を現在に例えるとするならば、社長ひとりに力が偏ったワンマン企業。
社長がいなくなれば、何もできなくなり経営が危うくなる企業のように、現に信長亡き後、天下は織田家ではなく家臣の豊臣秀吉が統一しました。
強権的なトップの理想に振り回される家臣たちの苦悩は、現代社会に通じるところがあるように感じます。

基本的に、信長をはじめとした織田一門のモノローグで物語が進んでいく中、後半は織田信長と本能寺の変で主君を討つ、明智光秀という二人の視点で語られていきます。
双方が抱える苦悩、そしてクライマックスに向かう緊張感は読みごたえ抜群。
そして信長を裏切ることになる光秀の焦燥は読んでいて、息苦しさを覚えてしまうほどです。

史実と史実の間を、現代のロジックで縫うようにして書き上げられた歴史小説。
歴史小説好きな方はもちろんですが、組織論・企業論を読み解く一冊としてもお勧めです!

 

宝島 / 真藤順丈

created by Rinker
¥1,998 (2019/02/21 12:27:31時点 Amazon調べ-詳細)

【あらすじ】

英雄を失った島に、新たな魂が立ち上がる。固い絆で結ばれた三人の幼馴染み、グスク、レイ、ヤマコ。
生きるとは走ること、抗うこと、そして想い続けることだった。
少年少女は警官になり、教師になり、テロリストになり―同じ夢に向かった。
超弩級の才能が放つ、青春と革命の一大叙事詩!

3冊目は1950年代の沖縄を舞台にした、『宝島』。
センシティブな沖縄を真正面から書いた、圧倒的なエネルギーが迸る1冊です。

すでに、書評を書いているので詳しくはこちらをどうぞ。

ベルリンは晴れているか / 深緑野分

created by Rinker
¥2,052 (2019/02/21 12:27:31時点 Amazon調べ-詳細)

【あらすじ】

戦争が終わった。
瓦礫の街で彼女の目に映る空は何色か。

ヒトラー亡き後、焦土と化したベルリンでひとりの男が死んだ
孤独な少女の旅路の果てに明かされる真実とは――
読後、きっとこのタイトルに心が震える。

時代と戦争、そして占領する戦勝国にあらゆるものを奪われた少女を通して語られる、ロードノベル形式の小説です。

戦後、祖国が無くなってしまった時間軸と、回想の中で祖国が戦争にひた走る様子が並行して綴られており、臨場感あふれる筆致は、読み応え抜群で、あっという間に引き込まれます。

詳しくは、こちらの書評でどうぞ。

熱帯 / 森見登美彦

created by Rinker
¥1,836 (2019/02/21 12:27:31時点 Amazon調べ-詳細)

【あらすじ】

汝にかかわりなきことを語るなかれ――。そんな謎めいた警句から始まる一冊の本『熱帯』。
この本に惹かれ、探し求める作家の森見登美彦氏はある日、奇妙な催し「沈黙読書会」でこの本の秘密を知る女性と出会う。そこで彼女が口にしたセリフ「この本を最後まで読んだ人間はいないんです」、この言葉の真意とは?
秘密を解き明かすべく集結した「学団」メンバーに神出鬼没の古本屋台「暴夜書房」、鍵を握る飴色のカードボックスと「部屋の中の部屋」……。
幻の本をめぐる冒険はいつしか妄想の大海原を駆けめぐり、謎の源流へ!

 

森見登美彦さんが綴る、“果てしない物語”

わたしが、この『熱帯』を読みながら思い出していたのが、ミヒャル・エンデ氏の『果てしない物語』でした。

「これは別の物語、いつかまた、別のときにはなすことにしよう」

(『果てしない物語』)

物語のなかに物語があり…という格子状の物語である、『果てしない物語』のような傑作がまたひとつ生まれた!というのが正直な感想でした。

この『熱帯』は誰も読み終えたことがないという幻の本、“熱帯”の謎を巡る大いなる旅を描いたもの。
物語が物語を語っていく中で、読み手は次第に物語に飲み込まれていく、まるでマトリョーシカのような物語世界が、本当に魅力的で、本好きにはぜひおすすめしたい1冊です。

本棚というものは、自分が読んだ本、読んでいる本、近いうちに読む本、いつの日か読む本、いつの日か読めるようになることを信じたい本、いつの日か読めるようになるなら「我が人生に悔いなし」といえる本……そういった本の集合体であって、そこには過去と未来、夢と希望、ささやかな見栄が混じり合っている。そういう意味で、あの四畳半の真ん中に座っていると、自分の心の内部に座っているかのようだった。

物語の中に登場するこの言葉、本好きなら「わかる~~!」と唸ってしまうのではないでしょうか?

余談ですが…

今回、ノミネートされた5冊の作家さんのうち、森見登美彦さんは最も多い3回目のノミネート!
これまで「夜は短し歩けよ乙女(2007)」「夜行(2016)」で候補となっています。

created by Rinker
¥605 (2019/02/21 16:52:05時点 Amazon調べ-詳細)
created by Rinker
¥1,512 (2019/02/21 12:27:32時点 Amazon調べ-詳細)

森見ファンの私としては三度目の正直で、獲得してほしいなあと思う気持ちもありまして。
(これを書きながら、「夜は短し歩けよ乙女」ってもう十年以上前に刊行されたんだ!と
時の流れの早さに愕然としました…。)

結びにかえて

候補作の5冊はいずれも読みごたえ抜群、面白さたっぷりの小説ばかり。

ぜひとも「該当なし」ではなく、この5冊の中から直木賞が選ばれてほしいなあと思います!

 

ABOUTこの記事をかいた人

福岡県出身、社会人3年目 よく読むジャンル:なんでも読む雑食系ですが、ミステリーやファンタジーをよく読みます。特に上橋菜穂子/恩田陸/辻村深月(敬称略) 読書は生活の一部。 ご紹介する本が、皆さまにとって良き出会いとなりますように。