アメリカ占領下の沖縄を描いた、直木賞候補作。真藤順丈 著『宝島』

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こんにちは、環(@echo3i_r)です!
先日、平成最後となる直木賞候補が発表されました。

今回は候補作のひとつ、『宝島』をご紹介したいと思います。

例年、書籍に関する賞の候補作を読むということをしてはいないのですが、
今年はたまたま読んでいた『熱帯』『ベルリンは晴れているか』が候補になったこともあり
せっかくだから候補作ぜんぶ読みたいなあ、と手に取ってみました。

怒涛のように押し寄せるエネルギーが、とにかく凄まじい1冊です。

沖縄を舞台にした小説、『宝島』

沖縄、というと皆さんはどのようなイメージを思い浮かべますか?

よく沖縄を代表する風景として挙げられる、コバルトブルーの海と白い砂浜は、ほかでは見ることができない美しい風景だと思います。
しかし、沖縄はほかのどの地方よりも歴史・そして争いに振り回された土地であることもまた確かです。

もともと、日本の一部ではなく独立したひとつの国であった、琉球王国。
中国や薩摩藩に従属する形で国家としての形を維持しながらも、明治維新後の廃藩置県によって琉球王朝は終わり(いわゆる琉球処分)、そして太平洋戦争中の沖縄地上戦、その後のアメリカ統治と、過酷な歴史を辿っています。
歴史を紐解けば、沖縄が今の日本の一部となったのはほんの百年ほどしかないのですよね。

沖縄を舞台にした小説といえば、真っ先に名前が挙がるのが池上永一さんの小説ではないでしょうか。
池上さんの『テンペスト』はNHKでドラマ化(主演:仲間由紀恵さん)されたことで、一躍有名になりましたが、圧倒的なスケールで琉球王朝の終焉を見事に書ききった大河小説です。

話戻りまして、今回の『宝島』は太平洋戦争後、アメリカ占領下の沖縄が舞台。

【あらすじ】

希望を祈るな。立ち上がり、走り出せ。愛は囁くな。大声で叫び、歌い上げろ。
信じよう。仲間との絆を、恋人との愛を。美しい海を、熱を、人間の力を。

英雄を失った島に、新たな魂が立ち上がる。固い絆で結ばれた三人の幼馴染み、グスク、レイ、ヤマコ。
生きるとは走ること、抗うこと、そして想い続けることだった。
少年少女は警官になり、教師になり、テロリストになり―同じ夢に向かった。
超弩級の才能が放つ、青春と革命の一大叙事詩!!

 

戦果アギャーと呼ばれる戦い

物語は1952年、沖縄での地上戦が行われた7年後から始まります。

当時、米軍の倉庫や基地から物資を奪う“戦果アギャー”と呼ばれる戦いが、繰り広げられていました。
アメリカ軍の基地から奪ったものを戦果と呼び、奪った食料品や医薬品などを住民に振る舞うのです。
この戦果アギャーは、当時食べ物も衣料品も圧倒的に不足していた、沖縄人たちにとって生きるために必要な糧でした。

沖縄戦では、4人にひとりの住民が命を落としています。
生きるか死ぬかの瀬戸際に立った者たちが、すでに蹴りのついた戦争をあえて続いていると見なし、強奪や窃盗の後ろめたさをごまかすようにして、占領者に一矢報いる雪辱戦を行う…そう、作中では描かれています。

渡るそばから崩れる桟橋のような世界を走りながら、ちっぽけなお頭には収めきれない人の死を目の当たりにした。
幸福のひとかけも知らない子どもが子どものままで事切れた。
敗戦のあとも飢えやマラリアに苦しみ、動物のように所有されて、それでも命を守るとりとめた島民は、こうなったらなにがなんでも生きてやる!と不屈のバイタリティを涵養させた。濡れねずみは雨を恐れない。裸のものは追いはぎを恐れない。
飢えや貧苦のあまりに居直ったほとんどの島民が、〝戦果アギャー〟に名乗りを上げていった。

戦果アギャーのリーダー・オンちゃんは地元では“英雄”と呼ばれる存在でした。

「おれたちの島じゃ戦争は終わっとらん」とオンちゃんは言った。

「あの日、アメリカーがぞろぞろと乗り込んできて、あちこちに星条旗をおっ立てて、そのまま五年も十年も居座ってるやあらんね。おやじ(スー)やおふくろ(アンマー)の骨が埋まる土地を荒らして、ちゃっさん基地を建てくさって。だからわりを食った島民が報われるような、この島が負った重荷をチャラにできるような、そういうでっかい〝戦果〟をつかまなくちゃならん」

オンちゃんとその親友グスク、オンちゃんの弟のレイはある日、基地を襲撃した後の脱出で、散り散りに。
その日を境に、オンちゃんは行方不明になってしまいました。

英雄・オンちゃんを探し出す。
英雄の親友・グスク、英雄の弟・レイ、英雄の恋人・ヤマコ、の3人は同じ目標を掲げ、それぞれの人生を歩み始め、その20年間が綴られたのがこの、『宝島』なのです。

“鉄の暴風”

物語は沖縄人らしい前向きな明るさで綴られているのですが、随所に沖縄戦やアメリカによる占領に対する怒りや悲しみの影が落ちています。

太平洋戦争末期、沖縄戦では約3か月にわたって米軍の激しい空襲や艦砲射撃を受けました。
無差別に多量の砲弾が撃ち込まれる様子を暴風になぞらえて、沖縄戦の様子は“鉄の暴風”と呼ばれています。
(※この鉄の暴風という呼称は、1950年に沖縄タイムスの記者がまとめた同名の書籍にちなんでいるそう。読んでみたいと思いましたが、やはり古いので絶版のようです……。)

ものすごい数のアメリカーが海から上陸してきて、沖合につめかけた艦隊は地形が変わるほどの砲弾を撃ちこんだ。島民の四人にひとりが犠牲になったあの地上戦で、だれかの亡骸をまたがずに走れない焼土を逃げまわり、避難した洞窟(ガマ)からは追いだされ、手榴弾や火炎放射器におびやかされた。

戦果アギャーのオンちゃん達も、この地上戦の生き残り。
戦時、彼らはまだ十代そこらの子どもでした。

あのときグスクは十二歳だった。洞窟(ガマ)の外からは砲弾の音が聞こえていた。
グスクは逃げまわっていた。飢えと渇きから、島民同士のいさかいから、埋葬の恐怖から。
アメリカーは投降しろと叫び、日本兵(ヤマトゥ)は投降するなと刀をふりまわす。
誰もが混乱している。降伏したがるものがいれば潔く自害したがるものがいて、乳呑み児の口をふさぐ母親を見た。
寝具に火をつけて一家を焼こうとする父親を見た。泣きながら刃物で切りあう家族を見た。
たしかにそのとき島じゅうの洞窟で、おなじような狂乱の光景がひろがっていた。

極めて個人的な話で恐縮ですが、わたしは小学校に入学する直前の6歳の頃、最初の(そして最後かもしれない)父との二人旅で沖縄を訪れ、その際に糸満市の摩文仁の丘に連れて行ってもらったことがあります。
そこには、約二十万人とも言われるおびただしい数の犠牲者の名前が刻まれた石碑があり、そこに立った時は身体が震え、涙が止まりませんでした。

作中では“鉄の暴風”を生き抜いた彼らが、戦後の沖縄をどう生きたかを、実際に起こった事件を背景に物語られています。
グスク、レイ、ヤマコの三人はオンちゃんをそれぞれ探しながらも、過ぎていく日々の中で彼らの生きる道は少しずつ変わっていきます……。

沖縄は変わったか?

戦後、沖縄はアメリカの占領下におかれ、日本本土が主権を回復した時も、わざわざ条文の但し書きつけで沖縄は対象外とされ、アメリカ軍が使う基地の工事が絶えず行われていました。

「ずっとそうだった。飛行機が堕ちようが、娘たちが米兵の慰みものになろうが知らんぷり。
毒ガスが持ちこまれようが見て見ぬふり。なにもかも本土の政府にとっては対岸の火事さ。
自国の領土なら大騒ぎすることでもこの島では起きたらやりすごす。
肝心なのはわれら沖縄人の安全や尊厳やあらん。アメリカーの機嫌を損ねずに自分たちの繁栄を守ることさ。
残念ながらこの島はもうずっと日本列島には勘定されておらん」

作中の、この島はもうずっと日本列島には勘定されていない、という言葉はフィクションに収まらない現実味を帯びています。
今も沖縄には、アメリカ軍の基地があります。
自国の領土なら大騒ぎすることでもこの島では起きたらやりすごす、という言葉は的を射ているようにも思いますし、現代日本への痛烈な皮肉なようにも感じます。
現代にも地続きであるセンシティブな沖縄の姿を、真正面から書くのはとても勇気が必要だったのではないでしょうか。

変わらなかったのは、本土変換のあとの沖縄だった。
1972年のその日を迎えて、琉球警察は沖縄県警に看板をつけかえて、通貨はドルから円になり、本土に渡るのにもパスポートはいらなくなった。だけどそれがなんだっていうんだろう。
アメリカ世からヤマト世になったところで巨大な基地のある暮らしはなにも変わらない。

グスクやレイ、ヤマコ達の世代は、存命であれば八十過ぎのおじい・おばあ。
沖縄返還が達成すれば基地がなくなるんじゃないか、この日々が変わるのではないか――そう、願いながら今も彼らは戦っていて、彼らにとっては戦争はまだ終わっておらず戦後でなく戦中に生きているのだと、そう感じます。

少し手に取りづらいテーマかとは思いますが、これは戦果アギャーの若者たちの青春小説。
戦後の沖縄が描かれるとなると、その悲劇にばかり見てしまいますが、歴史の大渦に巻き込まれていく彼らは、どこかキラキラとしていて眩しくて目が離せません。
皆さまにとって、忘れられない1冊となりますよう。

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ABOUTこの記事をかいた人

福岡県出身、社会人3年目 よく読むジャンル:なんでも読む雑食系ですが、ミステリーやファンタジーをよく読みます。特に上橋菜穂子/恩田陸/辻村深月(敬称略) 読書は生活の一部。 ご紹介する本が、皆さまにとって良き出会いとなりますように。