皆さま、新年明けましておめでとうございます、環(@echo3i_r)です!
2019年1月1日(火)の書評記事です。
今年もどうぞよろしくお願い致しますね!
さて、お正月といえば、、、箱根駅伝!
日本のお正月の風物詩としてイメージする方も、多いのではないでしょうか?
本日は三浦しをんさんによる、箱根駅伝の物語、『風が強く吹いている』をご紹介したいと思います!
インドア派のわたしは箱根駅伝をTVで見ながら、こたつに潜り込みこの本を読む…
というのが、ここ数年のお正月恒例パターンとなりつつあります。
↑右は何回も読みなおして少しくたびれています。
左はカバー裏の書き下ろしが読みたくて、もう一冊買い足しました。
驚くべくはAmazonのカスタマーレビューの数…!
この記事をしたためている今現在で、レビュー数は341件!評価段階は5つ星のうち、4.6!
投稿されているレビューのひとつひとつが熱く優しくて、
読んでいると思わず泣いてしまいそうになります。
……ということで、新年早々の記事ですが愛をこめて、書評記事をお送りいたします。
ぜひぜひ、今年の箱根駅伝を見たあとに、一緒にお楽しみください!
(書評記事から少し話がそれますが、
わたしは胸が熱くなるスポーツ小説が大大大好きでして、
- 『風が強く吹いている』
- 『DIVE!!』(森絵都さん)
- 『一瞬の風になれ』(佐藤多佳子さん)
- 『2.43 清陰高校男子バレー部』(壁井ユカコさん)
の4作は胸アツスポーツ小説4選、と勝手に思っております。)
環
あらすじ
作者は三浦しをんさん。
改めて紹介するまでもないかもしれませんが、
- 直木賞受賞作『まほろ駅前多田便利軒(シリーズ)』
- 本屋大賞受賞作『船を編む』
など数え上げればキリがないほど名作を世に送り出している作家さん。
個人的には、どの本を読んでも外れがないよなあ、と感じるヒットメーカー的作家さんでもあります。
(まあ、要はわたしの好きな作家さん、ということになりますがね。)
その三浦しをんさんの代表作のひとつが、この『風が強く吹いている』。
漫画化、実写映画化、そして2018年秋から2クールにわたってのアニメ化(しかも箱根駅伝放送局の日本テレビで!)と、メディアミックスも多くされている大人気小説なのであります!
さて、あらすじをご紹介させて頂きますと…
天に与えられた“走る”才能をもった2人の若者が出会った。
致命的な故障でエリート・ランナーへの道を諦めたハイジ(灰二)と、ある事件から走る場を追われたカケル(走)だ。
ハイジはカケルこそが秘かに温めていた計画の切り札だと確信、壮大な夢への第一歩を踏み出す。
それは、同じ寮で共同生活を送る8人のメンバーと学生長距離界最大の華といわれる<箱根駅伝>出場を目指すこと。
ところが彼らは陸上から縁遠い上、漫画オタクや25歳のヘビースモーカー、アフリカから来た留学生…。
しかし、ハイジの緻密なトレーニング法と走ることへの信念、仲間への揺るぎない信頼が、皆を変えていく。
やがて明かされる、ハイジの故障の理由とカケルが起した事件の真相、そして8人それぞれが抱えてきた本当の想い。
果たして、心を一つにした10人は、箱根の頂点に立つことができるのか?(映画 『風が強く吹いている』あらすじより)
…というお話。
“走る”という情熱に取りつかれた二人のランナーが出会ったことをきっかけに、陸上とは無縁の仲間たちと共にたった10人で学生長距離界の高み、箱根駅伝を目指す、というお話です。
カケルとハイジ、ふたりの出会い
主人公のカケルがある日の夜道、ハイジと出会うことで、物語は始まります。
一緒に暮らす仲間たちと箱根駅伝を目指す中、速さしか考えることができず人の機微にはうといカケルと、その心を解きほぐすハイジの言葉は、とても印象的です。
「走るの好きか?」
これは、これまでの陸上人生で速さばかり求められてきたカケルに対して、真っ先にハイジがかける言葉。
好きかって?そんなこと聞かれたこともない――競技としてではなく、人の歩みのひとつとして「好きか?」とハイジは問いかけていて、わたしの大好きな場面です。
もしもこの世に、幸福や美や善なるものがあるとしたら。俺にとってそれは、この男の形をしているのだ。
清瀬を撃った確信の光は、そのあともずっと、心の内を照らし続けた。暗い嵐の海に投げかけられる灯台の明かりのように。一条の光は、絶えず清瀬の行く道を示しつづけた。
変わることなく、ずっと。
これは、ふたりの出会いを描写した物語の冒頭なのですが、読むたびに心震えます。
わたしが言うまでもないことですが、三浦しをんさんの言葉づかいは最高なんですよ…!
「いいか、過去や評判が走るんじゃない。いまのきみ自身が走るんだ。
惑わされるな。振り向くな。もっと強くなれ」
時にはりつけるように、また優しく諭すようにカケルの意識を変えていくハイジの言葉は名言ばかり。
読んでいると自分の心も照らされるような言葉に出会えるのではないかと思います。
“速い”よりも“強く”
天才的ランナーのカケルが、ほかのメンバーのタイムに苛立つ場面があります。
そんな中でハイジがかける言葉があるのですが、これは本作を象徴するようなもので、このシーンだけではなく小説すべてを通して、読み手のわたしたちに投げかけられているように感じました。
「長距離選手に対する、一番の褒め言葉がなにかわかるか」
「速い、ですか?」
「いいや。『強い』だよ」
と清瀬は言った。
「速さだけでは、長い距離を戦いぬくことはできない。天候、コース、レース展開、体調、自分の精神状態。
そういういろんな要素を、冷静に分析し、苦しい局面でも粘って体をまえに運びつづける。
長距離選手に必要なのは、本当の意味での強さだ。俺たちは、『強い』と称されることを誉れにして、毎日走るんだ」
速い、ではなく、強く。これがこの『風が強く吹いている』のテーマなのかな、とわたしは思っていて、走ることだけでなく、人生にも通じる考え方だなと考えています。
速く成し遂げることが目的なのか、長い人生を歩き続けるためにはそれだけなく、一歩一歩踏みしめていくような強さが大切なのではないかなあ。
この「強く」という意識はハイジからカケル、そしてアオタケの仲間たちへと広がり、チームを後押しする力となるのです。
選ばれざるものたちの走り
カケルにハイジ。ふたりは走ることに魅せられた者たちで、走ることが好きで好きでたまりません。
しかし仲間たちの中には、走ることなんて嫌いだったり、走りに挫折した者たちもいます。
例えば高校時代に陸上部の選手だった、通称ニコチャンは、体格が大きく長距離ランナーには向いていない身体。
走っても走っても、上を目指すには限界があるけれど、向いていない、という言葉で片付けられるほど簡単な望みではない…という葛藤を抱えながら彼は走ります。
ニコチャンは選ばれなかったし、祝福されなかった。もしいるのだとするなら、陸上の神とでもいうべきものに。
走を身近で見ていれば、いやでもわかる。走のように、選ばれ祝福されたランナーになりたいものだと、ニコチャンは心から願ったが、それは果たされるべくもない望みだ。
でも、まあいいじゃねえか、とニコチャンは思う。(中略)抑えがたく愛しいと感じる心のありようは、走るという行為がはらむ孤独と自由に似て、ニコチャンの胸に燦然と輝く。
彼が走る姿や彼が目にする風景を文字を通して読むだけで、不思議と胸が熱くなり涙がこぼれそうになります。
わたし自身、走る行為は苦しくて辛くて、好きではありません。
しかし、自分の身体を使って走り、目的地を目指すという行為には、目的を達成するということだけではなく、それ以上のものが何かきっと得られるのではないか、とさえ思いました。
現在放映中のアニメでは、ひとりの後輩が「なぜ走るんすか?」と走ることの意義をニコチャンに問う場面があります。
このシーンは、原作の小説にはないものですが、ニコチャンの心情をうまく投影した答えであるような気がして、わたしは大好きです。
「まあ、人それぞれだけど、俺の場合は走ってる時だけは、綺麗になれる気がすんだろ。
真っ白っつうか、だらだら背負っちまったもん全部置き去りにして、一瞬でも綺麗ならさ」
小説がすごいだけでなく、このようにアニメが小説以上の魅力も内包していて、わたしはこの物語が大好きだなあと思います。
ここでは一例として、ニコチャンをあげましたが、彼だけでなくほかの仲間たちが走り成長していく姿も本当に素敵。
そして物語の最後で描かれるレースシーンは号泣必至です……!
(わたしは走、ハイジ、そしてそれぞれ神童、ユキ、と呼ばれる人物が走る場面のとある描写で毎度泣いています。)
結びにかえて
俺たちが行きたいのは、箱根じゃない。
走ることによってだけたどりつける、どこかもっと遠く、深く、美しい場所。
大学最高峰の箱根に出たい、走りたい。
でもそれは、彼らにとってゴールではなく通過点。
彼らは箱根に、そしてその美しい場所にたどり着くことができるのか―?
彼らの挑戦をぜひ、読んでほしいなと思います。
ぜったいに後悔しない純度100パーセントの青春小説です。
(※漫画、実写映画、そして放映中のアニメも原作への愛とリスペクトがつまった素敵な作品ですので、そちらからでもお勧めです!)
いつかほかの小説もご紹介したいなあ…。