不条理の果てに少女が見たものとは。深緑野分 著『ベルリンは晴れているか』

こんにちは、です。
本日は、先日発表された第160回直木賞候補作となっている
深緑野分さんの『ベルリンは晴れているか』をご紹介します。

まずこれだけは声を大にして言わせてください……。
気になっているなあ、と思う方はぜひ読んでほしいです!!!

(2019年4月追記)

この『ベルリンは晴れているか』、2019年の本屋大賞候補にも選ばれ、
3位を受賞しています!

あらすじ

時は1945年7月、第二次世界大戦直後のドイツ。
敗戦国の首都ベルリンは、アメリカ・ソ連・イギリス・フランスの4か国によって共同統治下にありました。

17歳のドイツ人の少女アウグステは、かつての恩人の死を知り、
恩人の甥にその訃報を知らせるべく人探しをすることになりますが
途中、成り行きでカフカという泥棒と道中を共にすることになります。

焦土のベルリンで少女が遭遇する不条理、その果てに明かされる真実とは――。
ロードノベル形式で綴られる、歴史ミステリー小説です。

戦争は終わっても、生活は続いていく

私自身、ナチス統治下にあるドイツを綴ったノンフィクションや小説は
数作読んだことがありますが、戦後を扱った物語は初めてでした。
時は1945年7月。ドイツは5月に総統が自殺し、降伏して戦争が終わっています。

作中に流れる雰囲気は、長い戦争が終わったという明るいものではなく、
大切なものを失いながらも、ただ日々を繰り返していかなければならないという
怠惰であり、疲れであり、明日も見えない絶望ではないか、と感じました。

戦争は終わったけれど、生きていかなくてはならない。
生活は続き、人々の中から戦争は過去のものにはなっていないのだと
作中の随所からただようようで、胸がいっぱいになりました。

この国は、もうずいぶん前から、沈没しかけの船だったんだ。
どこがまずかったのか、どこから終わりが始まっていたのか、
最初の穴を探し回っても、誰もはっきり答えられない。
全部が切れ目なく繋がっているからさ。

これは、作中のとある人物の言葉です。
「おかしい」と思う人もいたはずなのに、人々はその声を大にすることができず、
結果的に国は戦争と迫害の道を選び、すべてを失うことになったのだ、でも何がきっかけなのか分からない……。
軽いくだけだ口調の中に、国のリアリティがつまっているようで、とても印象に残っています。

物語では戦後、祖国が無くなってしまった時間軸と、
少女の回想の中で祖国が戦争にひた走る様子が並行して綴られています。
臨場感あふれる筆致は、読み応え抜群で、あっという間に引き込まれました。

不条理の果てに見る、ベルリンの空は

すべてのドイツ人がナチスドイツやヒトラーを熱狂的に支持していたわけではない、
ということも本書では語られています。
少女アウグステの父は、気高い心を持った工場労働者であり、その思想のため国により殺されました。

当時、ドイツにより行われてたユダヤ人を虐殺するホロコースト、身体障がい者や同性愛者への容赦ない迫害の様子は
国や集団化した個人が、グロテスクな不条理を簡単に突き付けてしまうことの恐ろしさがひたひたと伝わってきました。

ただそれは、戦争という非常事態が理由ではなく、あくまでも人は個人としてその差別の鉈を振るうのだ、と思います。
「国の方針だった」「私は本当はしたくなかった」と言い訳を口にしても、良心を閉ざし、行為に踏み切るのは個々人です。
作中では、アウグステの回想シーンでそれを幾度となく感じましたが、
そしてこれは遠い過去の話として整理したり、フィクションに留めることではなく、
今を生きる私たちにとっても地続きの話でもあります。

そして、差別を行ったドイツは戦争に負け、連合国により分割で占領されることになりました。
“ドイツ人”とひとくくりにされ、皆がナチスに心酔していたかのように罪をひとりひとりが問われ……。
いわゆるナチス狩りさえ、当時は行われ……。
個人が振るった鉈の矛先が、国民の責任としてひとりひとりに問われる様子は、何とも言えない不条理さを感じました。

作中では、いくつかの謎が仕掛けられています。

  • アウグステはなぜ、人探しに情熱を向けるのか。
  • 泥棒のカフカの正体。
  • 誰がアウグステの恩人を殺したのか。

終盤のどんでん返しで謎がほどかれていく様子は、圧巻でした。

旅路の果てに少女が見上げた空は晴れているか。
また、今を生きる私たちの上の空は果たして、晴れているか。
読後に少女から、そう問われているようにも感じます。

時代と戦争、そして占領する戦勝国にあらゆるものを奪われながらも、
少女が手離せなかったものは何か。そういったものをあなた自身は持っているか?

言葉にならない人々の怒りや悲しみが漂いつつも、
どこか爽やかで希望を感じさせるラストがとても印象的です。

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