日本発の大河ファンタジー、人の心に寄り添う物語。 上橋菜穂子 著 『精霊の守り人』

こんにちは、です。
わたしが年に1度、必ず読み返す大好きな物語に『守り人シリーズ』という小説があります。
作者は上橋菜穂子さん、以前「人生に影響を与えた3冊」という特集記事でも、紹介させて頂いた物語です。

実は先月、ファン待望のシリーズ外伝である『風と行く者』が刊行されました。
シリーズ本編完結から11年、そしてシリーズ最大の長編ということで、わたしも発売を知った時は感動してそれだけで泣いてしまいそうでした…。

新刊を読むにあたりぜひシリーズ1冊目から振り返りたい!ということで、『精霊の守り人』を今回はご紹介!

いつもにまして、気合と愛情をこめて、ご紹介します…!

守り人シリーズの魅力とは?

その1:大人から子どもまで楽しめます!

『精霊の守り人』からはじまる『守り人シリーズ』は、もともと偕成社から出版されている児童書ですが、軽装版に大人向けの文庫版(こちらは新潮社)の出版、そして漫画やアニメ、NHKでの3期にわたる実写ドラマ化などもされている、日本を代表するファンタジー小説です。
子どもはもちろん、三十代や四十代の大人たちもファンが多い、深みのある物語だと思います。

『守り人シリーズ』の大きな魅力のひとつが、登場人物たち。

主人公は30代の女用心棒、短槍の達人のバルサ。
そしてもうひとりの主人公ともいえる存在が、11歳の少年、新ヨゴ国の第二皇子・チャグムです。

NHKでの実写ドラマでは、短槍使いのバルサを綾瀬はるかさんが演じていました!
(一閃で降谷建志さん演じる追っ手ををぶっ飛ばすなど、原作さながらの強く優しいバルサでした)

彼らのまわりには、バルサの幼なじみでいかにも人が良い見た目をしている薬草師のタンダ、
バルサの養父で天才的な短槍使いのジグロ、年齢不詳の呪術師トロガイ、
息子への愛情をから息子を手離す気丈さを持つ、チャグムの母親・二ノ妃など、
年齢も性別もさまざまな人物たちが登場します。

シリーズを通して、彼らは年齢を重ねていくのですが、
読み手の年齢や立場によって、共感したり思い入れが強くなる登場人物がきっといるのではないかと思います。

わたしは、初めてこの物語を読んだ時は小学校6年生だったので、同年代のチャグムに心を寄せて読んでいました。
しかし、今ではあれから13年もの時が流れ、バルサの年齢にも近い立場の女性となり、
当時はあまり理解が及ばなかった、バルサという人物の深みに近頃は夢中。
子どものころは鬼のように強く、ただただ格好いいバルサしか見えていませんでしたが大人になった今、彼女の横顔はどこか悲しげで愁いをおびているように感じます。心情の機微が子どもにもわかりやすい言葉は表現で、綴られていて胸にすとん、と落ちていくような感覚です。
あの頃はチャグムに共感をしていたけれど、今では「なんだかこの子、かわいいなあ」と感じているので不思議な気持ちです。

児童書でありながら、大人のファンが多くいるこの物語。
歳を重ねるごとにきっと、違った味わいが楽しめると思います。
ちなみにわたしが中学生の頃、読んでいたシリーズ2作目の『闇の守り人』という作品を、リビングの机に置いていたら、母が一夜のうちに読みふけていた、ということがありました。それ以来、わたしと母は二世代の守り人ファンです。
当時の母が抱いた感想が分かるようになるには、まだ少し時が必要かもしれません。

その2 私たちの日常を感じさせる世界観

ファンタジーというと、ロード・オブ・ザ・リング(指輪物語)やゲド戦記、ハリーポッターシリーズなど、西洋を舞台にした物語が多いですが、この『精霊の守り人』は違います。
前者ががヨーロッパの文化をベースにしたファンタジーであるなら、『守り人シリーズ』はアジア人が作ったアジアの世界

日本やアジアの周辺の国々を思わせる、独自の世界が舞台となっています。
例えば、

  • 国を統治しているのは、帝であり皇族は神の子孫として崇められていたり
  • 主食はお米をはじめとする穀物だったり

歴史の時間を思い返すような古代の日本を思わせる国・新ヨゴ皇国が『精霊の守り人』の舞台となっています。

守り人シリーズの世界マップ(公式サイトより)
絵地図の入った本を読むのが好きなので、地図を見ただけでワクワクします。

地図に描かれているように、言語や宗教が異なるさまざまな国がシリーズでは登場します。
それぞれの国に、戦いや歴史があり、文化があり…
さまざまな風土、文化、社会を持つ国々とそこに暮らす人々が懸命に生きる姿が描かれ、まるで私たちが住んでいる世界が描かれているような空気感が息づいています。

守り人公式サイトより:物語を読もうか迷っているあなたへ

わたしがこの物語について語る上で言いたいことすべてを、実は偕成社の公式サイトでコメントされています。

『精霊の守り人』にはじまる、10巻+外伝2巻の「守り人シリーズ」。
長いな、読んでみようか、どうしようかな、と迷っている方は、まずは、『精霊の守り人』か『闇の守り人』のどちらかを手にとってみてください。
物語のはじまりであるシリーズ第1作の『精霊の守り人』、その深い心理描写から、大人がしびれる『闇の守り人』。
この2冊を気に入った方なら、きっと、あっという間に読破してしまうはず。いや、読破してしまうのが惜しくなるはずです。
チャグムを主人公とした『虚空の旅人』からは、物語は大きく舵を切って、壮大な歴史絵巻となっていきます。
ここからは、ぜひ、刊行した順番に読み進めてみてください。10巻以上なんて読めるかな、と思っている方、読まないなんてもったいない! ぜひ、ページをめくってみてください。物語の旅がはじまります。

『精霊の守り人』

あらすじ

さて、シリーズ1作目の『精霊の守り人』のあらすじをご紹介。

シリーズ1作目の『精霊の守り人』は、バルサという三十歳の女用心棒が、ひょんなことから、一国の皇子である十一歳の男の子、チャグムを助け、彼を守るために奮闘する物語です。

 

腕ききの女用心棒・バルサはある日、川におちた新ヨゴ皇国の第二皇子・チャグムを助ける。
チャグムは、その身に得体の知れない”おそろしいモノ”を宿したため、「威信に傷がつく」ことをおそれる父、帝によって暗殺されそうになっていたのだ。
チャグムの母・二ノ妃から、チャグムを守るよう依頼を受けたバルサは、幼ななじみの薬草師・タンダの元へ身を寄せる。
そして、バルサとチャグムは、タンダとその師である呪術師のトロガイ

から驚くべきことを告げられるのだった ── チャグムに宿ったのは、異界の水の精霊の「卵」であること、孵化まで守らないと大干ばつがおこること、そして、異界の魔物がその「卵」をねらってやってくること ── 。

帝のはなつ追っ手、さらに人の世の力をこえた危険から、バルサはチャグムを守り抜けるのか?

公式サイトより抜粋)

文庫版の解説は恩田陸さん・神宮輝夫さんと超豪華!
読もうか迷っている方は、こちらだけでもちらりと読んで頂きたいです…!

物語は、ここから始まる

物語の書き出しが、わたしはほんとうに素敵だなと思っています。

バルサが鳥影橋を渡っていたとき、皇族の行列が、ちょうど一本上流の、山影橋にさしかかっていたことが、バルサの運命を変えた。

やはり、子どもも楽しめる作品であるだけに、言葉の使い方が巧みだと思います。
小学生だったあの頃、この書き出しで一気に物語に引き込まれたのですが、大人になった今でも、くだけたところがなくどこか無機質で硬めの文章でありながら、読みやすく美しい文章に夢中になっています。

バルサはこの書き出しの場面で、皇子チャグムと運命的な出会いを果たします。
繭に包まれるようにして大切に育てられたチャグムと、一風変わった30代女性用心棒の出会いが、チャグム自身の運命も大きく動かしていくことになるのです。

バルサとチャグム、ふたりの絆

自分の知らないうちに、精霊の卵を宿すことになり、宮廷を追われ、母とも別れなくてはならなくなった十一歳の少年チャグムは、当然バルサに対してもすぐに打ち解ける、なんてことはありません。

そもそもどうして自分がこんな目に合わなくてはいけないのか?
いつの間にか宿した精霊の卵のせいで命を追われなくてはいけないのか?

自分がうまく納得できない、大人の事情やあずかり知らぬ精霊の世界に巻き込まれ、本来なら皇族であるチャグムが一生関わることがない下々の世界の人間であるバルサに対しても、どう接したらいいか分からず、不愛想です。
皇子とはいえ、十一歳の男の子。八つ当たりしたり、不満をもらしたり…。

しかし、チャグムは自分と無関係なバルサが命をかけ、守ってくれる姿を目にする中で
皇子である自分は守ってもらって当たり前だと感じていた心に、変化が生じます。
彼女のどこか不器用だけどぬくもりのある接し方に、少しずつチャグムの心も解きほぐされ、成長していくのです。

自分とは無関係の子を守るバルサ。
その彼女もまた、幼い頃、国をゆるがす陰謀に巻き込まれ、養父ジグロに守ってもらったという過去がありました。
バルサはチャグムとの日々の中で、養父ジグロと過ごした記憶をめぐり、彼女もまた変わっていくのです。

皇子チャグムと女用心棒のバルサ、ふたりの関係性の変化も本書の魅力のひとつです。

結びに代えて

ほんとうは、この『精霊の守り人』のことだけを紹介しよう、と思ったのですが、
語る上でやはりシリーズのことを綴らずにはいられませんでした。

大人となったわたしにとって、いちばん胸に染み入る物語は『闇の守り人』という作品です。
わたしの母と同様、ここから読んだという大人読者も多いそうです…こちらについてもいつか書評記事が書けたらいいなと思います。

created by Rinker
¥637 (2018/12/19 17:40:45時点 Amazon調べ-詳細)
created by Rinker
¥972 (2018/12/19 17:40:46時点 Amazon調べ-詳細)
created by Rinker
¥1,620 (2018/12/19 17:40:46時点 Amazon調べ-詳細)

ABOUTこの記事をかいた人

福岡県出身、社会人3年目 よく読むジャンル:なんでも読む雑食系ですが、ミステリーやファンタジーをよく読みます。特に上橋菜穂子/恩田陸/辻村深月(敬称略) 読書は生活の一部。 ご紹介する本が、皆さまにとって良き出会いとなりますように。