“不老不死”が実現した社会で、人はどう生きるか。山田宗樹 著『百年法』

初めてのかたははじめまして、そうでない方はこんにちは。です。

先日、山田宗樹さんの『百年法』という小説を読んだのですが、とても面白くがっつりと引き込まれ、文字通り寝食を忘れる勢いで読みふけました。実は、『百年法』を知るきっかけになったのが、Twitterでフォローをしている方が作成した、こちらの紹介動画です。この動画を見て、「なにこれ面白そう!!」と思い、すぐさま買って読み始めました。

 

※動画制作者エリオットさんご本人の許可は頂いております。

 

正直、わたしの書評記事を読むより、こちらの動画を見て頂いたほうが面白さが分かるのでは…と思い、ご紹介させて頂きました。著者の山田宗樹さんも、ご自身のTwitterでご紹介されていたんですよ、いやあ凄い動画です。この動画を見て、もし面白そうだなと感じたのであればこの先なんて読まなくて大丈夫。すぐにでも買うことを全力でお勧めします!

動画を紹介して終わり、というわけにもいかないので『百年法』について超ざっくりと説明しますと、“不老不死”という言わば人の究極の欲望が実現した社会で、人は何を思いどう生きるのか、といった物語です。物語の鍵は、タイトルでもある“百年法”。
SFでありながらもエンタメ度も抜群の一冊、ぜひたくさんの人に読んでいただきたい物語です!

『百年法』あらすじ

不老化処理 通称:HAVIと百年法

物語の舞台は日本、しかし作中では太平洋戦争中、六発の原子爆弾が投下され、国土は焦土と化しています。
西暦1945年に戦争は終わるものの、都市部は壊滅し人口は半減、GHQの支配下におかれており、共和制が敷かれていました。
いち早い復興のため、GHQはすでにアメリカで実用化されていたヒト不老化技術(human-ageless-virus inoculation:通称HAVI)を日本に導入します。
HAVI処置を受けると、その処置時点の見た目そのまま、生きていくことができ、見た目は同じ二十代でも、歳を重ねることができます。同じような若者の見た目でも、本物の二十代もいれば五十代のおじさんおばさんもいて、八十代のおじいさんおばあさんもいる、ということ。つまるところ、見た目同士で惹かれあっても、実年齢は親子ほどの差、なんてこともあり得るわけで、非常にユニークだな、とこの設定でがっつりと心をわしづかみにされました。作中ではほとんどの国民が、このHAVIの処置を受け、不老不死のような身体になります。

そのHAVIの導入時に制定されたものが、生存制限法、通称「百年法」です。

生存制限法 通称:百年法
不労化処置を受けた国民は
処置後百年を以て
生存権をはじめとする基本的人権は
これを全て放棄しなければならない

つまるところ、処置を受けた百年後に安楽死の処置を受け、死ななければならない、というもの。
そして、物語はHAVIの初導入から百年目、百年法の施行が迫っている西暦2048年から始まります。

百年法の施行

物語は、この百年法の施行を控えた、官僚たちの視点からまず始まります。

HAVIを受けた者は不老不死と同義であり、国の人口は増え続けるばかり。様々な社会問題も生まれ、国としての新陳代謝も鈍り国力の減退に繋がる――そう、内務省の官僚たちは考えます。

一方で、権力を握るベテランの政治家たちは、HAVI導入直後に処置を受けた者も多く、百年法を施行することは自身の引退そして死を導くと考え、「国民の不安を招く」「十分な議論ができていない」などもっともらしい理由をつけ、百年法施行に待ったをかけようとしていました。
国の未来を憂う官僚集団 VS 保身に走る政治家たち、という構図がなんともアツい!

あらすじが長くなりましたがこの『百年法』は、HAVI実施から百年を迎えるとき、日本人はどうするのか、そしてその後の日本はどうなっていくのか、という人と国の行く末を描いています。

皆が主役級の格好よさ!

官僚たちから始まった物語ですが、章ごとに人物の視点が変わっていきます。

ある場面は、庶民階級の女性労働者。
国から与えられる単純労働に従事し、高くはないが生活はできるといった程度の賃金を支給されています。定期的に職場が変わるため、友人もおらず生きがいもない、ただ生きているだけ、といった状態です。HAVIの処置を受け、それなりの年月が経過しており、「私の人生っていったいなんだろう」とぼんやりとした不安を抱えて日々を送る中で、ひとりの女性と出会います。

またある場面は、死んだとされる伝説の爆弾テロの主犯者“阿那田童仁”(あなた どうじん)を追う警察官の男。
彼は“ある理由”のため、“阿那田童仁”を探さなければならない理由がありました。

『百年法』に登場する人物たちはは重複も含めてなんと上巻で31名、下巻で22名。
「多い…!」と驚かれる方もいるかもしれませんが(わたしも【登場人物一覧】を見た時には、少しびっくりしました)、章ごとに視点、つまり人物や立場が変わっていく構成がとられ、ストーリーが進行していくので、混乱することはありません。総勢入り乱れる場面などないので、大丈夫です。
内務省の官僚たち視点から物語が始まったので、てっきり映画『シン・ゴジラ』的な展開と思いきや、ばらばらだったストーリーが巧みに交錯し、次第にらせん状に進みひとつの終わりへと向かっていく様子はまさに圧巻です。

物語のラストは2098年、半世紀の時を超え描かれる日本という国家の行く末はどうなるのか。鳥肌だつような展開が待っています。

“不老不死”をどう思うか

皆さんは、“不老不死”をどう思いますか?
このテーマは人がかねてから望んでやまない、究極の欲望ともいえます。

わたし自身の話をしますと、小学生の頃に読んだギリシャ神話での月の女神が人間と愛し合ったものの、不老不死である神と違って人は老い死ぬため、ゼウスに願い人に不老不死という永遠の眠りを与えた、というストーリーの印象が根強く残っています。不老不死は大昔から人が願い続けてきたものなのではないでしょうか。

不老不死に関する神話や逸話はいくつもあり、人にとって長年の憧れであった不老不死が、この『百年法』のように選ばれた特権階級だけでなく社会システムの一環となった時、人はどう考えるのか、というのは新しい発想で非常に興味深かったです。

作中で多くの人がHAVIの処置を受ける中、中にはあえて選ばない人もいます。選ばない人の考えや生き様はどこか目が離せない魅力があります。読み手のわたしたちとは、何も変わらないのに…。

結びにかえて

作中では百年法をめぐり、二者択一で是非を問う国民投票が行われます。
現実の日本では憲法改正の際の国民投票のみが規定されていますが、いまだ例はありません。

国民の手で、国の行く末を決めるはずの国民投票は民主主義の象徴なのだと思ってきましたが、その前提条件は国民ひとりひとりによって異なるのだ、とその国民投票のシーンを読みながらうすら寒さを感じました。ある者は今この瞬間だけを考え、またある者は自分の子や孫の時代のことを考え、またある者は過ぎた過去で死んだ者たちのことを考え…。

人の数だけ価値観や正義感がある中で、二者択一で国の行く末を問う、という手段は何とも難しいものなのかもしれません。現実には憲法改正を、という議論はされているわけですが、それが実際に行われた時、おそらく同じようなことが起きるわけで…。

フィクションであるはずなのに、今の現実に日本を鏡写しにしているようにも感じ、「面白かった」だけでなくあれこれと考える社会派小説でもあるなあと感じました。
面白いSF作品であることはもちろんですが、エンタメ面でも読みごたえは抜群!気になった方はぜひ手に取って頂けたらと思います。

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わたしはKindle版上下合作本で読みました。

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ABOUTこの記事をかいた人

福岡県出身、読書が好きな社会人。 なんでも読む雑食系ですが、ミステリーやファンタジーをよく読みます。特に上橋菜穂子/恩田陸/辻村深月(敬称略)など。 読書は生活の一部。 ご紹介する本が、皆さまにとって良き出会いとなりますように。