あの頃世界は広く、不思議だらけだった。 森見登美彦 著 『ペンギン・ハイウェイ』

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はじめに

初めてのかたははじめまして、そうでない方はこんにちは。です。
去る2018年8月17日、映画「ペンギン・ハイウェイ」が公開となりました。
わたしの大好きな小説、森見登美彦さん執筆の同作が原作となっています。

森見登美彦さんというと、「夜は短し歩けよ乙女」「四畳半神話大系」など、少々とっつきにくい一昔前の文学青年が綴ったようなテイストの作品が代表作として挙げられがちです。
しかし、この「ペンギン・ハイウェイ」の主人公は小学校4年生のアオヤマ君、彼と不思議なお姉さんの、ひと夏の物語。
淡いサイダーのような透明感と、爽やかさがにじみ出る少し不思議な1冊をご紹介します。

アオヤマ君とお姉さん、そしてペンギンの謎

主人公の小学校4年生のアオヤマ君は、とても利口な男の子。
日々、努力を怠ることなく勉強に、そして日々の生活の中で気になることや謎を見つけては、ノートを取り研究に取り組んでいる。
彼の考えや一言は、大人のわたしがどきり、とするほどにオトナだ。

他人に負けるのは恥ずかしいことではないが、昨日の自分に負けるのは恥ずかしいことだ。
一日一日、ぼくは世界について学んで、昨日の自分よりもえらくなる。

(p5 episode1 海辺のカフェ)より

この一言は、正直今のわたしにとって耳が痛い。

そんなアオヤマ君が研究している謎のひとつが、ペンギンと近くの歯医者で働いている、少し不思議なお姉さん
ある日、アオヤマ君たちが住む街に突然現れたのは、なんとペンギンたち
そしてどうやら、そのペンギンたちにはお姉さんの“力”が関係しているらしいのだ。

私というのも謎でしょう。この謎を解いてごらん。どうだ。君にはできるか。

(p45 episode1 海辺のカフェ)より

 

子どもだったあの頃

アオヤマ君の世界や社会の見方は、オトナをもハッとさせるような魅力が詰まっている。
だが、これはアオヤマ君だから魅力的なのではない。
ハッとさせられるのは、アオヤマ君の言葉だけではなく、友人のウチダ君やハマモトさんの言葉にも、オトナを少しどきりとさせる“何か”が宿っている。

多くの子ども達が持つ、そしてオトナである私たちが持っていた世界の縮図が、このアオヤマ君たちの目に映る世界なのだ。

わたしはアオヤマ君とちがって、利口でも賢くもない子供でだったけれど、彼の目を通して思い出したのは、小学生だった頃の自分だ。
彼が生き生きと過ごす日常には、あの頃のわたしが生きていた世界を思い起こす。

  • クラスの中にはどうしても好きになれない奴がいたこと
  • 真夜中にふと自分が世界で一人きりのような気がしてしたこと
  • 宇宙の果てや世界の果てに思いを巡らせること

 

思い出しては少し胸の奥がきゅううと苦しみながら、あの頃眺めていた世界をふと思い出させてくれる。
作中の中でも私が印象に残っているシーンが、こちらだ。

ぼくがもっと何も知らなくて、わがままで、あまえんぼうであった時代、ぼくも妹と同じように大事な人たちがじつはみんないつの日か死んでしまって会えなくなるのだという事実に気づいて、本当にびっくりしたことがあった。ぼくはもちろん生き物がいつか死ぬことは知っていたけれども、そのことが本当の本当に自分に関係があるものだという気がしなかったのだ。

(p271 episode3 森の奥)より

アオヤマ君を見ていると、あの頃の自分が見ていた世界がむくむくと湧き上がる。
小学生の頃、一日はどうしようもなく長くて、でも楽しいことや不思議なことが生活の中にたくさん転がっていたことを思い出す。

実は読後の先日、ふと空を見ると二重の虹が空にかかっていたのだが、よく眺めているとふたつめの虹は普通の虹とは色の並びが逆で、赤がいちばん内側にきていることに気が付いた。
そういったちょっとした発見がスマホで調べればあっという間ただの事象のひとつになってしまうことは、楽しさや不思議を色褪せさせてしまっているのかもしれない。

おわりに

毎日を楽しくするのも、面白くするのも自分次第。
アオヤマ君が作中でそのような言葉を使うわけではありませんが、彼の瞳に映った世界を眺めていて、ふとそのように感じます。

アオヤマ君が追いかけるペンギン、そしてお姉さんの謎。
その謎の果ては、ぜひ本書でお確かめいただきたいのですが、読後はなんだか愛おしくてそして切ない気持ちが押し寄せてきます。

わくわくと甘酸っぱさがつまった物語、夏の後半にいかがでしょうか?
映画のほうもとても素敵ですので、併せてお楽しみください🐧

 

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ABOUTこの記事をかいた人

福岡県出身、社会人3年目 よく読むジャンル:なんでも読む雑食系ですが、ミステリーやファンタジーをよく読みます。特に上橋菜穂子/恩田陸/辻村深月(敬称略) 読書は生活の一部。 ご紹介する本が、皆さまにとって良き出会いとなりますように。