高校野球100回大会にぴったりの1冊! 須賀しのぶ 著 『夏空白花』

created by Rinker
¥1,836 (2019/06/17 22:17:57時点 Amazon調べ-詳細)

はじめに

今年も夏の全国高校野球選手権が幕を開けました。日本の夏の風物詩である高校野球は今年、100回大会の記念の節目を迎えています。
今回はその高校野球の歴史を紐解き、戦後再建のため挑んだ戦いを迫真の筆致で綴られた小説、『夏空白花』をご紹介します。

本書の著者は須賀しのぶさん。
2017年に直木賞候補になり、第4回高校生直木賞を受賞した「また、桜の国で」などの骨太な歴史大作が有名ですが、野球がテーマの青春小説も人気です。

戦争によって奪われた「高校野球」

物語は1945年8月15日に迎えた終戦から、幕を開けます。その日、記者の神住は朝日新聞大阪本社の屋上に立ち尽くしていました。
敗戦を目の前に、誰もが呆然とする中ひとりの男が神住の前に現れ、「今こそ未来を担う若者のために戦争のため失われた「高校野球」を取り戻すのだ」、と口にします。元高校球児である神住の胸に、当時自らが抱えていた熱が蘇り、そしてその熱は、次々に周囲へと広がっていきます。
これからの高校野球を目指す者のため、戦場で散った高校野球の“仲間”たちのため、高校球児だった自分のため、そして日本の未来のため、神住達は敗戦から1年後の再建を目指し、立ち上がりました。

今でこそ夏の風物詩である高校野球ですが、戦時中である昭和16年~20年の間は、中止に追い込まれていました。戦争が奪ったものは大会だけでなく、球児たちの多くが、白球の代わりに手榴弾を投げ、そして敵地で帰らぬ人となりました。本書ではそのような悲しい、しかし決して忘れたくはない歴史も刻まれており、より一層物語に深みを与えています。

高校野球を取り戻す、と口にしても現実は容易ではありませんでした。球場は空襲により破壊され、道具もユニフォームも満足にありません。
「野球などよりもほかにすることはないのか」という反対の声も多く上がり、再建には多くの困難が立ちはだかります。

今この時代に夏の風物詩として高校野球が残されているのは、当時再建のために奮闘した人たちがいたからこそなのだと思うと、甲子園という大会がただの学生野球の大会なのだ、とは思えなくなりました。
本書を読んだ今、甲子園球場で躍動する球児たちを見る目が、今夏からは変わるだろう、そんな気がします。

「高校野球」とは何なのか?

高校野球の再建に立ちふさがった最大の壁は、戦後日本を占領したGHQでした。
「なぜプロでもないアマチュアの大会の再建を、こうも急ぐのか」と、再建に理解を示しません。また“野球”と“ベースボール”の違いや、日米におけるスポーツマンシップの解釈の違いからも、強固に拒絶します。

また同じ日本人でも「食べ物も満足にない今、なぜ野球なのか」「若者を食い物にしているのではないか」という反対も根強く、神住の歩みを阻むのです。

――こんな時代だから希望になるとあんたたちは言うが、こんな時代に子どもたちを祭り上げて、重荷を背負わせているとは考えないのか。

本書は、学生たちが輝く場所である甲子園を取り戻す!という単なる青春小説ではありません。
戦争中に野球を止めざるをえなかった者たちの苦しみや、“野球”により人生を狂わされたとしか言えない者たちの悲嘆が語られることに加え、球児たちに重くのしかかるプレッシャーや、「スポーツは楽しいはずなのに、取り組んでいる子どもたちが修行僧のようだ」と言及される現代にも通じる学生スポーツへの投げかけも同時に為されている、いわば“骨太”な青春小説なのです。

おわりに

本書は甲子園の歴史と、そして大会に込められたありったけの熱意と愛を思う存分感じることができる1冊です。

青々とした空の下で躍動する白いユニフォームを見ると、すべてを失ったゼロからの戦いを経て復活を迎えた日の感動のほんの一部を感じることができるような、そんな気がします。

今年の甲子園のお供に、いかがでしょうか?

created by Rinker
¥1,836 (2019/06/17 22:17:57時点 Amazon調べ-詳細)